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日の出で始まり夕陽で終えるラオスの一日(岩佐文夫)

「海外に住んでみたい」という願望を50歳を過ぎて実現させた著者。日本と異なる文化に身をおくことで、何を感じ、どんなことを考えるようになるのか。会社員を辞め編集者という仕事も辞めてキャリアのモデルチェンジを図ろうとする著者が、ベトナムやラオスでの生活から、働き方や市場経済のあり方を考える。
連載:ベトナム、ラオス、ときどき東京

05:00
首都ビエンチャンの朝は早い。薄暗いなか、オレンジ色の袈裟をまとった僧侶たちがお寺から次々と出てくる。曜日や天気と関係なく、僧侶たちは毎朝日の出と同時に、鉢を抱えて町を歩き出す。信者である街の人たちは、その鉢にご飯やお菓子、あるいはお金などを入れ、お供えをもらった僧侶たちはお経を唱える。僧侶たちは裸足で町を歩くのだが、これが相当辛そう。この「托鉢(たくはつ)」がラオスの一日の始まりでもある。

06:00
街ではすでに屋台が営業を始めている。お粥やカオピヤックセンと呼ばれる麺料理などが朝食として食べられている。またラオスの伝統的な珈琲も。これはカップにまずコンデンスミルクを多めに注ぎ、そこに濃い目の珈琲を淹れる。飲むと最初はブラックなのだが、だんだんとコンデンスミルクが勢力を増し、最後の方はあのどろっとした甘ったるさが口の中を席巻する。お茶とともにこの珈琲を飲むのがラオス流。朝からずっとカフェにたむろして話しをしているのはおじさん連中である。

07:00
交通量が増してくる。ラオスでは7時半や8時から働き出す人も多い。街のカフェも営業を開始する。

12:00
お昼休みになるとまた交通量が増える。いったん自宅に帰ってランチをする人が多いそうだ。一方で近くのレストランでランチをとる人も。女性の方がランチタイムを楽しんでいるように見える。オフィスで働くラオス人女性の多くが、民族衣装の柄を裾にあしらったスカートを着ている。大きめの傘を日よけとしてさし、ゆっくりとレストランまで歩く。麺料理でも、ゆっくり時間かけて食べる。彼女たちが選ぶお店は、大概美味しい。

14:00
街では外国人の観光客が目立ち、歩いているラオス人をほとんど見ない。この時間がもっとも歩いている人が少ない時間帯。そう、暑さが一番厳しい時間でもある。人影のないお店を覗くと、奥の方で店員と思しき人がだいたい寝ている。店の犬や猫もテーブルの下で昼寝をしている。ある日雑貨屋さんに入ったら店員さんが床で寝ていたのには驚いた。トゥクトゥクの運転手さんも、ハンモックでお昼寝。貴金属店の警備員さんも店頭でお昼寝。

16:00
再び交通量が増える。ラオスの職場は16時に終わるところが多いのだ。クルマやバイクの音で街に活気が出てくる。

18:00
メコン川沿いの広場に人が集まりだす。ここが涼しいというのもあるが、お目当てはメコン川に沈む夕陽のようだ。友達と来ている高校生、家族一同で来る人、一人でバイクを止めてぼんやり眺めている人などなど。このメコン川の夕陽の美しさに国境はなさそうだ。

人が集まると屋台、そしてナイトマーケットが繰り出す。Tシャツや靴、鞄の店、焼いた鶏肉、魚、なかにはカエルなども揃えた食材屋が並ぶ。ジョギングしている人もいる。野外でのエアロビクス教室も毎日開催される。参加料約60円。誰でも参加でき、大音量の中で汗をかくことができる。

19:00
街が一番賑わう時間。路上は屋台が増える。惣菜を売る店、スイーツやフルーツを売る店、チャーハンなどの炒め物を出す店など。ラオスでは店先で調理する店も多い。揚げ物や炒め物の匂い、麺をゆでる大鍋から出る蒸気、人の声、食器や調理の音。音と匂いで活気が生まれる。働いている人は圧倒的に女性が多く、中学生くらいの女の子が注文を取りに来ることも珍しくない。

21:00
この時間になると真っ暗である。街灯が少なく飲食街から外れると、深夜のような暗さと静けさ。同時に電気代が高いからなのか、ラオス人は暗いのに慣れている。煌々と灯りをともしている家など見ない。むしろ薄暗いなかでご飯を食べるのが、まったく苦でないよう。

22:00
一般的な飲食店は営業を終了。街は眠りに入り人影もほとんど見えない。

日本と比べると一日の始まりも終わりも、2時間くらい早いように感じる。太陽に合った生活と言うべきか、日が昇り日が沈むスピードと同じような、ゆったりとした時間が流れる。日本との時差もちょうど2時間というのは皮肉か偶然か。日本から時差ボケのままここで生活すると、ちょうど彼らの生活リズムに合う。

岩佐文夫(いわさ・ふみお)
1964年大阪府出身。1986年自由学園最高学部卒業後、財団法人日本生産性本部入職(出版部勤務)。2000年ダイヤモンド社入社。2012年4月から2017年3月までDIAMONDハーバード・ビジネス・レビュー編集長を務めた。現在はフリーランスの立場で、人を幸せにする経済社会、地方活性化、働き方の未来などの分野に取り組んでいる。ソニーコンピュータサイエンス研究所総合プロデューサー、英治出版フェローを兼任。
(noteアカウント:岩佐文夫

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