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定員15名のワークショップを毎週開催する理由(松崎英吾)

視覚障がい者と健常者が「当たり前に混ざり合う社会」の実現に向けて、体験授業から企業研修、国際大会主催、代表チーム強化、企業や行政とのパートナーシップ締結まで幅広く活動する著者。本連載では、10年にわたる試行錯誤から学んだNPO経営の醍醐味と可能性を考える。
連載:サッカーで混ざる――事業型非営利スポーツ組織を10年経営して学んだこと

日本ブラインドサッカー協会(以下、JBFA)では週に一度、ブラインドサッカーの体験ワークショップ「OFF T!ME」(オフタイム)を開催しています。対象は18歳以上の個人で、参加費4,000円、定員は15名。

おかげさまで毎回盛況なのですが、この事業、どんなに頑張っても売り上げは年間で300万円程度です。もちろん、年50回運営する分の会場費や販促コスト、人件費などがかかっています。

ではどうして、私たちはこの事業を続けているのでしょうか?

お試しプログラムの参加者の声からわかったこと

オフタイムを私たちが始めたきっかけは、この連載で何度も登場している、小中学校向けの体験学習プログラム「スポ育」でした。この「スポ育」は学校からはお金をとらず、企業の協賛金で賄うことを想定していたため、スポンサー獲得のためにプログラムのことをよく知ってもらう必要がありました。

そこで、スポ育に興味をもってくださった企業の方に見学機会を設けると、私たちが想像していなかった反応があったのです。「このプログラム、うちの会社でやりたい」と。

目隠し状態になり、チームメンバー全員が対等になって共通の目的を目指すことで、コミュニケーションが改善し、チームワークを効果的に発揮できるようになるワークショップ。ブラインドサッカー体験をそうとらえると、会社で応用できるものは多く、実際に現在では企業研修としても提供しています。

しかし、子どもたち向けのプログラムが大人にどれほど通用するのか、当時はまったくの未知数。そのため、「うちの会社でやりたい」と言ってくださった方々をお招きし、お試しプログラムを実施しました。

「マーブルナイト」と名付けて実施したこのイベントは、夜7時に都心に集まって私たちが考えたプログラムを体験。その後、懇親会の場に移りプログラムがどうだったか、フィードバックをもらいました。

こうした体験会や懇親会を通して、企業向けプログラムの質は着実に高まっていきました。しかし、この取り組みによって私たちはもっと別の大切なことに気づきました。それは、企業のみなさんにブラインドサッカーを体験してもらうことで、「今後私たちとどのようにお付き合いをしてくれそうな人か」を知ることができる、ということです。

個人的に寄付をしてくれそうな人なのか、ボランティアとして協力してくれそうな人なのか、会社内の有力な人脈を紹介してくれそうな人なのか。そういったことが、この体験会&懇親会の場でよく分かることを知ったのです。

エヴァンジェリストの影響力

それは言い換えると、私たちが「説得しなくてはいけない向こう側」の人から、私たちの事業や活動を周囲に語り、何らかの働きかけをしてくれる「エヴァンジェリスト」へと変化していったとも言えます。

エヴァンジェリストとは、私たちにとってこういう方々です。
・上司に熱意をもって私たちの事業や活動を語ってくれる。
・会社のフォーマルな人脈にとどまらず、学生時代の同期や職場以外の知人などインフォーマルな人脈にも働きかけてくれる。
・私たちの事業や活動をどうしたらよいか、私たち抜きでも考えてくれる。

このような味方が組織の外に生まれていくと、こういう効果があります。
① ステイクホルダーが広がる
自分たちのリソースがボトルネックにならず、組織の外で自団体の活動を紹介してくれたり、だれかを巻き込んでくれたりする人がいることで、ステイクホルダーが増えていきます。
② 資金調達につながる
ステイクホルダーが広がれば、NPOやアマチュアスポーツにとって常に課題である資金調達にも繋がります。私たちで言えば、企業研修の担当者を紹介してくれる(紹介してくれるときにはすでに説得してくれている場合も)、スポンサーシップの担当者を紹介してくれる、みずから体感した「オフタイム」の場に連れてきてくれる、などです。
③ 理念が広がる
そして大切なことですが、私たちの目指すビジョン(理念)が広がっていくことに繋がります。

ブラインドサッカーの体験会が、エヴァンジェリストを育てる場になっていったのは、私たちにとってまったく想像していなかった展開でした。なぜオフタイムがそのような場になったかというと、一つは、それが私たちの「理念を体感する場」だからだと思います。

もしこの場が、ただ楽しい遊びをする場所であれば、おそらく参加者が私たちの活動を広げたり応援したりしてくれることはないでしょう。オフタイムが、「視覚障がい者と健常者が混ざり合う」という私たちの理念を楽しみながら感じられる場であるからこそ、次のアクションに繋がるのだと思います。

オフタイムによって支えられている事業はたくさんあります。たとえば、法人とのパートナーシップ契約。パートナーシップを結ぶまでには、出会ってから数か月、長ければ2~3年を要することもあります。その過程において、まず担当者がオフタイムを体験し、次に上司、そして最後に決裁者である役員の方が足を運んでくださるケースがあります。

もしオフタイムがなければ、会議室で机を挟んで「なぜブラインドサッカーなのか?」「なぜJBFAなのか?」を説得しなくてはなりません。その場合、企業のみなさんに私たちの理念を体験できる手段がなく、理念に対する理解と共感を十分に得ることは難しいでしょう。

エヴァンジェリストを生み、コミュニティを育む。

冒頭の質問に戻りましょう。
「どうして私たちは、この事業を続けているのか?」

それはオフタイムが、エヴァンジェリストを生み、さらに「視覚障がい者と健常者が混ざり合う」という理念に共感し、行動する人々のコミュニティを育てる場であるからです。

これまでの連載でもお伝えした通り、事業成長期のNPOにとって「商品・サービスづくり」はとても重要なこと。自立経営するには一定の商品ラインナップを用意し、法人や個人に対して働きかけることが求められます。

でも、自分たちのビジョンを実現するには、「商品づくり」だけでは十分ではありません。自分たちを支えてくれて、めざす社会を一緒に実現していく「仲間づくり」もとても重要です。

ファンや仲間をつくり、つなぐ。そういう「コミュニティマネジャー」の役割が、これからのNPO経営者には求められるのかもしれません。

松崎英吾(まつざき・えいご)
NPO法人日本ブラインドサッカー協会 事務局長。1979年生まれ、千葉県松戸市出身。国際基督教大学卒。学生時代に偶然出合ったブラインドサッカーに衝撃を受け、深く関わるようになる。大学卒業後、ダイヤモンド社等を経て、2007年から現職。2017年、国際視覚障がい者スポーツ連盟(IBSA)理事に就任。障がい者スポーツの普及活動、障がい者雇用の啓発活動に取り組んでいる。(noteアカウント:eigo.m
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松崎英吾「サッカーで混ざる」

視覚障がい者と健常者が当たり前に混ざり合う社会の実現に向けて、体験授業から企業研修、国際大会主催、代表チーム強化、企業や行政とのパートナーシップ締結まで幅広く活動する著者。本連載では、10年にわたる試行錯誤を通じて学んだ、スポーツ組織やNPO経営の醍醐味と可能性について考える。
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