見出し画像

日本選手権の会場すら確保できない、新興アマチュアスポーツの生き残り戦略(松崎英吾)

視覚障がい者と健常者が「混ざり合う社会」の実現を目指す日本ブラインドサッカー協会。日本選手権はその象徴であり、全国のブラインドサッカーチームの頂点を決める権威ある大会。にもかかわらず、数年前まで会場確保に四苦八苦。アマチュアスポーツならではの悩みを乗り越える秘訣とは?
連載:サッカーで混ざる――事業型非営利スポーツ組織を10年経営して学んだこと

春にやったり冬にやったり。開催時期が不安定だった日本選手権

いよいよ明日、「第17回アクサ ブレイブカップ ブラインドサッカー日本選手権」が開幕します。2018年6月23日〜24日が予選ラウンド、そして7月8日がFINALラウンド。全国のブラインドサッカーのクラブチームの頂点を決める、権威ある大会です。

この大会では、4名のフィールドプレーヤーのうち、2名までは視覚に障がいのない晴眼者が出場できます。これに目の見えるガイド(自陣ゴール裏で味方選手に声で情報を伝える人)やゴールキーパーが加わり、視覚障がい者も健常者も同じ一つのチームとしてピッチに立ちます。

「ブラインドサッカーを通じて、視覚障がい者と健常者が当たり前に混ざり合う社会を築くこと」をビジョン(理念)としている日本ブラインドサッカー協会(以下、JBFA)にとって、日本選手権はまさに「混ざり合う」を体現する場なのです。

私たちにとって、とても重要な日本選手権。でも第1回〜第7回までは冬に開催したり春に実施したりと不安定で、現在のように夏に定例開催できるまでに、実に8年もかかりました。

とてもニッチなテーマではありますが、日本選手権の開催時期が安定するにいたるまでに、JBFAがどのような試行錯誤をしてきたかを、今回はみなさんにお伝えしたいと思います。

スポーツ施設の予約が一筋縄ではいかない理由

開催時期がバラバラだった理由は2つあります。
ひとつは、助成金を大会の財源にしていたからです。助成金が確保できないうちは大会の規模も予算も決められない。しかし助成金の目途が立つのは6月、遅い場合は8月。助成金頼みだったため、その年によって開催時期がころころ変わってしまっていたのです。

ふたつめは、なかなか会場を予約できなかったという背景があります。
会場の予約は、予約受付開始時に申し込んでお金を払うというのが一般的ですが、スポーツ施設の場合、次のような特徴があります。

1 お金を払えば予約できるとは限らない
スポーツ施設の多くは、民設民営ではなく、公設公営・公設民営です。公設であるということは、税金が投入されたということ。それはつまり、住民に対してベネフィットを提供する必要があります。また、偏りがないように公平性をもった運営も求められます。

たとえば、「市民体育館」が、年間52回の週末すべてを商業性の高いコンサートで利用されたら、市民のための利用が過剰に制限されていることになり、その地域での存在価値を問われることになるでしょう。公設施設では収益性のみが問われるわけではないため、お金さえ払えば予約できるわけではないのです。

2 優先予約権がある
多くのスポーツ施設が公設であるため、公益性の高い用途(住民やその地域にためになること)に優先順位が高く設定されています。その地域の小学生、中学生、高校生のスポーツ大会、防災訓練などが定期的にスポーツ施設で実施されるのは、優先予約権があるからです。

また、JリーグやBリーグなどのプロスポーツも優先予約権を持っているケースがあります。多くのプロスポーツクラブがその地域に根ざして発展していくことを目指していることに加え、自治体がそれらのクラブに株主として資本参加しているケースも多々あるからです。

優先権ゼロからやったこと

一部の地域に根ざした団体ではないJBFAには当然、会場予約の優先権はありません。その結果、会場確保に苦労し、大会のカレンダーは安定せず、それはクラブや選手たちにとってもストレスになっていました。

現在も、会場確保に「問題がない」わけではありません。ただ、年月を重ねるなかで少しずつ交渉力を高めていき、施設運営者との関係を構築してきました。その取り組みを紹介します。

1 首長のマニュフェストや自治体の中期計画に則った提案をする
公設会場の場合、私たちのように優先予約権を求める団体は数多くいることでしょう。そこで他団体と差別化するために、その会場を我々が利用することで、首長のマニュフェストや自治体の中長期の計画に、どのように貢献できるかを提案していきました。

「利用させてください。なんとかなりませんか?」ではなく、「私たちが利用すれば、マニュフェストの障がい者政策で位置づけるこの部分を、市民の皆さんに価値提供できます」とアプローチしたのです。

特にJBFAの場合、スポーツ政策だけでなく、障がい者政策が大きく関与します。たとえば、毎年2~3月に「さいたま市ノーマライゼーションカップ」というブラインドサッカーの国際親善試合を、さいたま市と共同で開催しています。これは、2011年にさいたま市が全国に先駆けて制定した「ノーマライゼーション条例」を啓発していく大会です。

さいたま市にとっては、障がい者を身近に感じていない人に、この条例を知ってもらう必要があります。一方で障がい者団体は、障がい当事者やその周辺の人々にリーチする力をもっています。

私たちはブラインドサッカーの国際親善試合を通して、サッカーをプレーする子どもたちや、Jリーグなどのサッカーを観る人に対して、条例を啓発するお手伝いをしているのです。このノーマライゼーションカップは、さいたま市の政策に則っており、市の協力を十全に仰ぎながら展開することができています。

2 自治体との提携関係を強化する
上記のようなアプローチはきっかけづくりであり、いわば新規顧客獲得のプロセスです。一度きっかけができた後は、その関係性を強化していくことが必要です。

① 自治体予算を確保する
関係性を強化するパワフルな方法のひとつは、その自治体からまずは少額でも、予算を確保していくことです。予算を確保するには、通常夏頃に、自治体の予算策定プロセスに案件を組み込まなければなりません。

早ければ1年半、長ければ4~5年かかる場合もありますが、先ほど述べたように、提案内容が自治体の政策に則っていれば、実現の可能性は高まります。そして一度予算化されれば自治体の性質上、前年度を踏襲していく傾向が強いので、継続の可能性も高まります。そして事業が評価されれば、少しずつ予算額が増えていくことも期待できます。

② 地域のクラブチームにバトンタッチする
ブラインドサッカーのクラブチームは現在、全国に約20チームあります。特定地域との関係構築を、その地域に関係するクラブチームに任せていくことも、関係性強化のポイントです。

たとえば先ほど述べた、さいたま市。ここには「埼玉T.Wings」というクラブチームがあります。最初はJBFAとの関係で始まりましたが、さいたま市ノーマライゼーションカップを促進していくためのイベントや体験会などを、埼玉T.Wingsに引き受けてもらいました。そうすることで、さいたま市にとっては自治体内で活動する団体と連携することになり、ブラインドサッカーを推進する意味に地域性も加わります。

③ 協定を締結する
準備期間が数年かかる「公式国際大会」を主催する場合、会場予約はさらに難航します。数年先の予約を受け付けてくれる会場はほとんどありません。しかし、会場も日程も未定では、国際組織から受理されません。そのような準備期間の長い大会では、自治体と協定を結ぶことも有用です。

たとえば、2018年3月に初めて開催した「IBSAブラインドサッカーワールドグランプリ」という大会があります。IBSAとは、ブラインドサッカーを国際的に統括する「国際視覚障がい者スポーツ連盟」の略称です。品川区で開催されたこの大会は、準備期間に3年をかけ、品川区とは大会の約2年前の2016年4月にパートナーシップ協定を締結し、会場確保に協力をいただきました。

新興アマチュアスポーツだからこそ、「当たり前」をやる

会場を安定的に確保し、定例的に大会を実施していくことは、新興のアマチュアスポーツにとって容易ではありません。しかし、それを「行政が非協力的で…」「会場の理解がないから…」と言っても一向に解決しません。

かつての私たちもそんな愚痴ばかりこぼしており、その結果、日本選手権は「毎年いつやるかわからない大会」に成り下がっていました。もし当時のように開催時期が不安定なままだったらブランドは定着せず、大会に冠スポンサーがつくことも、スタンドがお客さんでいっぱいになることも、なかったのではないかと思います。

大会を開催するには会場が必要。多くの場合、会場を所有しているのは自治体。しかし、自治体とのコネクションはない。だったら、大会開催が自治体にとってどんな価値があるかを丁寧に説明しよう。ただの「会場貸し借り」を超えて、ちゃんと関係を深めていこう。そして自分たちが、地域のクラブチームと自治体との橋渡しになろう。

……これまでやってきたことをこうして書き出してみると、自分たちは当たり前のことを、ただ地道にやってきたのだなあと改めて思いました。奇抜なことは一切なし。

むしろ、私たちのような新興アマチュアスポーツ組織にとって、「当たり前をちゃんとやる」ことこそが、最大の生き残り戦略なのかもしれません。

明日からの日本選手権の運営も、基本的なこと、誰でもできそうなこと、やり慣れていることを、一つ一つ丁寧に実行していきたいと思います。それが、「混ざり合う社会」の実現に一歩近づくことを信じて。

松崎英吾(まつざき・えいご)
NPO法人日本ブラインドサッカー協会 事務局長。1979年生まれ、千葉県松戸市出身。国際基督教大学卒。学生時代に偶然出合ったブラインドサッカーに衝撃を受け、深く関わるようになる。大学卒業後、ダイヤモンド社等を経て、2007年から現職。2017年、国際視覚障がい者スポーツ連盟(IBSA)理事に就任。障がい者スポーツの普及活動、障がい者雇用の啓発活動に取り組んでいる。(noteアカウント:eigo.m
ありがとうございます!あなたの望む未来への前進に役立ちますように。
7
英治出版の書籍をより楽しむコンテンツ、よりよい未来をつくるアイデア、読者を応援する企画を発信します。

こちらでもピックアップされています

松崎英吾「サッカーで混ざる」
松崎英吾「サッカーで混ざる」
  • 13本

視覚障がい者と健常者が当たり前に混ざり合う社会の実現に向けて、体験授業から企業研修、国際大会主催、代表チーム強化、企業や行政とのパートナーシップ締結まで幅広く活動する著者。本連載では、10年にわたる試行錯誤を通じて学んだ、スポーツ組織やNPO経営の醍醐味と可能性について考える。

コメントを投稿するには、 ログイン または 会員登録 をする必要があります。