見出し画像

変化は、私たちみなの領域なのだ━━『世界はあなたを待っている』より「プロローグ」一部公開

社会起業に投資をする非営利団体アキュメンを創設し、貧困問題に取り組んできたジャクリーン・ノヴォグラッツ氏の新刊『世界はあなたを待っている——社会に持続的な変化を生み出すモラル・リーダーシップ13の原則』。30年間の葛藤と成果を経てたどり着いた、変化を生み出すリーダーとなるための原則について語った一冊です。
ますます複雑になる社会課題に取り組むとき、私たちに必要なこととは何だろうか——。想像すると、途方に暮れるかもしれません。それでも一歩踏み出し、自分自身が変わる勇気を持つことを選んだ人々が、世界に変化をもたらしてきました。あなたにも大きな可能性があるのだと、奮い立たせてくれる「プロローグ」から一部を公開します。

過去30年の技術革新とグローバリゼーションで、何もかも変わった。極貧の割合は10%に下がり、携帯電話が地球上のほぼすべての人をつないでいる。私たちは互いの居間をのぞいて、互いの生活を目にすることができる。人権——そして人間以外のものの権利——は拡大しつつある。非常に多くの面で、世界はより良くなっているのだ。

とはいえ、この世界を形づくっているのと同じ力——テクノロジーと株主資本主義——は、私たちを破壊する力を潜在的にはらんでいる。私たちは分断され、不平等になり、危機に陥っている。集団として、気候非常事態の最後通牒に直面している。限られた人々ではなく多数の人々の生活を向上させることを標榜し、表面上は努力をしている機関の多くが崩壊している。それなのに、私たちはそれらの代わりとなるものをつくろうとは考えてこなかった。

私たちには新しいナラティブが必要だ。あまりにも複雑に関係し合っている私たちは、互いを切り離すような世界観を許容するわけにはいかない。テクノロジーや市場によるシンプルな解決策に期待することもできない。そのような物語は、もうその役割を終えているのだ。

私たちは互いの一部であり、共通の人間性によって結びつけられているという理解を忘れずに、違いを大切にする—そうして、共存するだけではなく共栄することを学べば、私たちははるかに豊かで生産的になり、平和に暮らせるだろう。このような物語は、上からではなく、私たちみなの中から生まれるはずだ。

私たちが必要としているのはモラル・レボリューション(倫理革命)にほかならない。この一大転換は、テクノロジーやビジネスや政治を想像し直し、改革するのに貢献し、それゆえ生活のすべての側面にかかわってくる。私が言う「倫理(モラル)」とは、結果を考えることなく、権威や慣習の固定したルールを厳密に守る、という意味ではない。私たち個人の、そして集団の尊厳を高めることに焦点を当てた一連の原則ということだ。

それは、ただ自分自身の利益のためではなく、他者の役に立つことを、日々選択するということである。また、私たちが知るこの世界を築いたその大胆さと、私たちの相互依存性にいっそう敏感な新たな謙虚さを併せもつ、ということでもある。

もちろん、モラル・レボリューションという概念自体、身の程知らずなものだ。ナイーブすぎるという人もいるかもしれない。しかし、単純な理想主義でこの本を書いているわけではない。

私は30年以上、社会と経済の変化を求めてたくさん闘ってきた。その時間の多くをアキュメンの設立に費やし、貧困の中で暮らす人々に、適正な価格で基本的な製品・サービスを提供しようとする社会起業家に投資してきた。この仕事によって私は、地球上で最も大きな課題を抱えるいくつかの場所において持続的な変化が生まれる現実を、最前線で目の当たりにすることができた。こうした社会起業家から多くを学び、深く触発されてきたのだ。そして私は、これらの教訓を伝えたいと考えた。これらの教訓は広く当てはまるものだからだ。

もちろん、どの取り組みも簡単なものではない。困難や、ときには決定的な失敗を潜り抜けた何百人もの変革者たちとともに、私は歩んできた。私の顔には、失敗、喪失、そしてあまりにも多くの眠れない夜の痕跡が刻まれている。

けれども、そこにあるのは厳しい闘いの跡ばかりではない。あらゆる困難に抗って、自由と機会と公正を求めて粘り強く努力した人たちと共有した、笑顔や笑い声によって刻まれたものもある。これまで私は、自分たちのコミュニティ、会社、国、そして究極的には自分たち自身を変えてきた優れた人々と一緒に仕事をしてきた。

他の人の目から見ればどうしようもなく夢物語のような理想を、少数の人のためだけでなく、何百万(ときには何億)もの人のために実現させるのを見てきた。スローガンやきれいごとの言葉ではなく、こうした人たちの行動が、目的やインパクト、尊厳、愛という概念を私に根付かせてくれた。どれも、倫理指針の基準となってくれる概念だ。

今、新しい世代が台頭している。彼らは、どのように暮らし、何を買い、どこで働くか、いっそう意識的に選択する世代だ。持続可能性に積極的に取り組み、権力には説明責任が伴うべきだと認める会社でなければ、働きたくないと考える人も多い。同時に、そうした声に耳を傾ける企業も増えている。

CEOのなかには、若手社員の進言に応えるために、またCEO自身が変化の必要性を感じているという理由から、シェアホルダー中心のモデルからすべてのステークホルダーを大切にするモデルへと移行する企業も増えていることを、私は心強く思っている。企業で働く人には、行動の機会がふんだんにあるということだ。

冷めた見方をする人たちは、政府、企業、テクノロジーのシステムがあまりにひどく崩壊しているため、周辺から変えようとしても無駄だと指摘するかもしれない。しかし、冷笑家は未来を築きはしない。その代わりに、しばしば自分たちのひがんだ物の見方を使って、行動しないことを正当化する。彼らとは正反対の人たち—思慮深く、共感的で粘り強く信じる人たちや、モラル・リーダーへの道の途上にいる楽観主義者が、今ほど必要とされているときはない。

本書は、大小問わずさまざまな問題の解決に力を貸し、世界を変える人材となることを願う人に向けて書いた。あなたは学校の教師やコミュニケーターかもしれないし、活動家や医師、法律家、投資家、あるいはポジティブな変化を求める新しいグループかもしれない。そうした人たちが、生徒やストリートチルドレン、難民、元収監者、あるいは忘れられたコミュニティに住む人々や、戦争、貧困、環境を汚染する企業によって破壊し尽くされた場所に住む人々の人生を変える様子を、私は目にしてきた。

病人のために献身し、心傷ついた人を癒し、死にゆく人の傍らに座る仕事は、しばしば誰の目にも留まらないが、自分もまた愛される価値のある存在なのだと他者に思い出させるものだ。このような仕事を、ただこなすだけでなく、さらに進歩させる人々の姿も目撃してきた。

あるいは、あなたはフィランソロピストかもしれない。システムを変えるという困難な仕事には、財源が必要だ。複雑な問題の解決に取り組む新世代の起業家たちが登場しているのと同じように、フィランソロピストの新世代も登場している。彼らは、資金だけでなく、時間、積極的な関与、人とのつながり、そして心のかなりの部分を捧げることをいとわない人たちだ。

変化は、私たちみなの領域なのだ。

地球上のどの国にも、大惨事と冷笑に満ちた、精も根も尽き果てるようなニュースの連続を甘んじて受け入れることなく、いいニュースをつくり出そうとしている人たちがいる。彼らは共感の輪を意識的に広げ、私たちが共有するあらゆるものを静かなる強さに変え、違いを越えて手をたずさえ合う。私たちが抱える問題はとても似通っていて、解決可能だ。そして私たちは、自分が考えるよりも善い存在だ。

私が知っている、世界を大きく変えた人たちは、世界と他者に対して強烈な好奇心をいだき、自分とは違う人々の声に耳を傾け、共感しようとする姿勢を持っている。こうした人たちが特別なのは、学歴や銀行口座の額ではなく、その人間性や、たとえ味方がいなくても勇気を蓄え、自らの信念に従って生きる姿勢のためだ。

もちろん、こうした人間性は一夜にしてでき上がるものではない。自分自身より大きな何かに積極的に取り組み、モラル・リーダーの資質を追い求め、自分の努力が他者にどう役立ったかによって成功を定義し、日々の決断のなかに目的意識を取り入れるという、一生をかけたプロセスを通して磨かれるものなのだ。

変化は可能だ。大規模で持続的な変化は可能なのだから、自分にもその変化の一端を担う責任があると私は考えるようになった。

変化を生み出す人生に近道はない。困難な仕事だが、時間を費やすに値する。そして、見えにくくとも実感できる変化の向こう側に到達できたなら、それは世界の何ものにも代えがたいことだ。達成感だけではない、深く、持続する喜びを得るだろう。

私が本書を書いたのは、私たちが住む、不平等で分断された脆弱な世界、それでもやはり素晴らしい世界が、根本的な倫理の再生に値すると信じているからだ。この大転換で私たちはみな、自分の考え方を、消費主義より関係性へ、利益より目的へ、自己中心性より持続可能性へとシフトすることが求められるだろう。

私たちは目を覚まして、労働者を材として見るのを止め、環境を自分の個人的領域として見るのを止め、株主を全能と見るのを止めなければならない。自分にとって適切なことをやれば、それが他の人にとっても適切なことになるだろうと仮定する、古臭いモデルから脱却する必要があるのだ。

もしあなたが、会社や非営利団体設立のための単なるハウツー本や手取り足取りのガイドブックを求めているなら、本書は期待に沿えない。本書は、何千もの変革者たちから私が学んだ原則を、何よりも人間の尊厳の価値に基づいて紹介し、共有しようとするものだ。彼らのそれぞれの物語を通して、やみくもな楽観主義ではなく、はっきりとした希望を持って未来を見据えるモラル・リーダーシップとはどういうものかが明らかになる。

本書でその取り組みを紹介する人たちは、醜い真実に対処することを学ばなくてはならなかったさなかに、可能性の歌を口ずさんだ。どんな問題も私たちが行動を起こすきっかけになることを、彼らは理解しているのだ。

マニフェストとは、自分が何をするつもりかを公に宣言するものだ。本書のマニフェストは、モラル・リーダーを募る呼びかけに耳を傾けるすべての人たちのためにある。より良い世界を夢見て、それを築くための指針となる原則であり、この変化の旅をすでに先に歩んだ人たちが刻んだ、倫理指針の座標でもある。

(注)ウェブ掲載にあたり、可読性向上のため、改行を加えています。

[著者]ジャクリーン・ノヴォグラッツ
非営利団体アキュメンCEO。最も困難な貧困問題を解決しようとする社会起業家に「忍耐強い資本」を投資するという考えに基づいて、2001年にアキュメンを設立。「インパクト投資」のパイオニアとして、医療、教育、クリーンエネルギーなどの非常に重要なサービスを何億人もの低所得層に届けてきた。2020年、社会変化を目指す世界的な学びの場としてアキュメン・アカデミーを創設。また、貧困と気候変動が重なる領域での投資に向けて営利のインパクトファンドをいくつか発足させた。さらに、ステークホルダーの生活向上はシェアホルダーの利益と同じ重要性を持つという原則に基づいて社会的インパクトを測定する会社、60デシベルを立ち上げた。
アキュメンの仕事に加え、世界中から講演依頼を受け、また多くの慈善団体の理事会メンバーでもある。ニューヨーク在住。著作に『ブルー・セーター』(英治出版)。

[訳者]北村陽子
翻訳業。東京都生まれ。上智大学外国語学部フランス語学科卒。訳書にキャロル・オフ『チョコレートの真実』、カーン・ロス『独立外交官』、シンシア・スミス(編)『世界を変えるデザイン』『世界を変えるデザイン2』、ジャクリーン・ノヴォグラッツ『ブルー・セーター』、ニコラス・D・クリストフ&シェリル・ウーダン『ハーフ・ザ・スカイ』、エレン・ラプトン他『なぜデザインが必要なのか』(以上、英治出版)など。

▼こちらもおすすめ(関連書)


みんなにも読んでほしいですか?

オススメした記事はフォロワーのタイムラインに表示されます!