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スマートシティ実装のために、行政と民間はどう連携できるのか(東京都副知事 宮坂学さん)

2021年1月に発売した『未来を実装する──テクノロジーで社会を変革する4つの原則 』。世に広がるテクノロジーとそうでないものの違いを明らかにし、テクノロジーで社会を変革する方法論を説いた本です。
本書では、さまざまな立場で、テクノロジーの社会実装を実践する方々のインタビューを掲載しています。今回は、都市へのデジタル技術の社会実装に取り組む、東京都副知事の宮坂学さんのインタビューを公開します。
今世界で注目される「スマートシティ」のかたちや、民間との協働の在り方について、語っていただきました。

──副知事として、都市へのテクノロジーの社会実装をどのように捉えられていますか?

都市への社会実装の議論では、スマートシティという概念が注目を浴びていて、各都市が競争しています。なぜ各都市が競争しているかというと、都市がビジネスのプラットフォームとなりつつあるからです。

現在はインターネットやスマートフォンだけでビジネスが完結しなくなってきており、MaaSやドローンのように、リアルの現場が絡み合う場所での価値の創出が必要になってきています。そんなとき、各都市がどれだけの通信インフラや制度が整っているかによって、その都市でビジネスができるかどうかが決まります。良いインフラや制度がある都市には良いビジネスが生まれ、そこに住む市民の利便性が上がり、その都市の魅力も向上します。

ネットの時代にはブラウザやクラウドがプラットフォームであり、スマホの時代ではアプリストアがプラットフォームであったように、今は都市がプラットフォームになりつつあると考えています。そして2050年には世界人口の約7割が都市に集中すると言われており、都市をどのように整備していくかは日本の喫緊の課題でもあると思っています。

──スマートシティを進めていくうえで気を付けていることはありますか?

まずスマートシティには、未来的なきらびやかなスマートシティと、日常がちょっと便利になるスマートシティという二つのアプローチがあって、どちらも大事だと思っています。私は前者を大文字で書くSMART CITY、後者を小文字のsmart cityと呼んでいます。

未来的なスマートシティの構想はメディアで大きく取り上げられます。一方で、メディアには取り上げられませんが、FAXをデジタルに変えることや、行政手続きがオンラインでできるようにするといった、小文字のsmart cityの取り組みも重要なことです。

住民にとっての今の困り事を解決していきつつ、大文字のSMART CITYを実現できるようなインフラを敷設して、ビジネスが生み出されるプラットフォームにしていく。それが都市へのテクノロジーの社会実装の一つの姿だと思っています。

行政サービスという観点からは、デジタル技術は「聴く力」との相性がよい、という考えを持っています。行政がデジタル技術を使えば、市民の皆さんと直接つながってフィードバックの声をもらったり、非言語的な市民の声もデータを通して「聴く」こともできます。

GAFAなどの企業も大量のデータからユーザーのニーズを把握して、精度の高い情報を提供していますが、もし行政が市民の許可を得ながらそうした動きができれば、困っている市民により良い公的サービスを提供できるようになります。

アメリカやEUでは、新しい行政サービスを始めるときは、その制度に該当する市民モニターに来てもらって実際に使ってもらうことなどをしているそうです。そうした取り組みを通じて、行政が市民の声にもっと耳を傾けられるようになり、行政と市民の間での対話の機会が増え、市民が行政サービスや制度作りに参加できるようになるのも、一つのスマートシティの姿だと思っています。

市民の困っていることやニーズを聴いて行政に活かす。これは民主主義のプロセスそのものとも言えます。デジタルテクノロジーを上手に活用することで民意をより早くよりたくさん知ることができます。また将来的にはネット投票などによって、民主主義のデジタルトランスフォーメーションも可能になるかもしれません。

──スマートシティを社会実装していくために、どのように都市と民間とが連携していくべきだと考えますか?

まずはオープンデータ化だと思います。
オープンデータ化することで、民間企業やNPO、市民の皆さんがそのデータを活用してサービスを開発することができます。たとえば、異なる年齢層の利用者に向けて、異なるユーザーインタフェースを作り、利用者に合わせて使い勝手を良くすることもできます。

都がこれをやろうとしても、現在の都の職員にはITの専門職が100人程度しかいません。たった100人で約1400万人の都民のITインフラを担っています。その業務範囲はアプリだけではありませんし、そもそも都民のニーズは多様なため、すべてのニーズにこたえるアプリを都の職員だけで開発するのは不可能です。

なので、オープンデータ化して、都市をプラットフォームとして活用してもらい、そのプラットフォームからサービスが次々と生まれてくる環境を整えるほうがよいという考えです。現在、都庁には約20の局がありますが、それぞれがオープンデータやAPIを用意して、毎年1個ずつアプリが生まれれば、年間20個、5年で100個になります。さらにオープンデータやAPIが各都市で標準化されていれば、他の都市でも同じことが実施できて、民間企業にとっても大きなビジネスになるかもしれません。

そこでTOKYO Data Highwayの取り組みでは、都保有のアセットの所在地や面積・高さなどの情報を整理して、通信キャリアが利用できるデータベースを公開しています。このフォーマットを他の道府県でも使ってもらえれば、通信キャリアにとっても有益で、その結果、他の地域の市民の皆さんにも通信インフラが届きやすくなります。

さらに都市のAPIを用意して提供することで、都市インフラの持つ機能を民間企業が利用することも可能かもしれません。そうすると、そこから生まれるサービスの幅はさらに広がります。

オープンデータやAPIを用意しても、使ってもらえなければ意味がありません。アプリもそうですが、一番難しいのは作ることよりも、普及させることです、そのためには開発者に寄り添っていく必要があります。だからこそ、私も含めた行政の職員とスタートアップや大企業、NPOの方々が、もっともっと話し合う場を作っていきたいと思っています。

(注)ウェブ掲載にあたり、可読性向上のため、改行を加えています。


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宮坂 学
1967年生まれ、山口県出身。大学卒業後、株式会社ユー・ピー・ユーで雑誌や広告制作に携わる。1997年、創業2年目のヤフーに入社。2012年、44歳で同社社長に就任。「爆速経営」をスローガンに掲げ改革に取り組む。2018年会長に退き、2019年6月同社取締役を退任。同年7月東京都の参与に。9月20日付けで東京都副知事に就任。
未来を実装する──テクノロジーで社会を変革する4つの原則
馬田隆明著

今の日本に必要なのは、「テクノロジー」のイノベーションよりも、「社会の変え方」のイノベーションだ。
電気の社会実装の歴史から、国のコンタクトトレーシングアプリ、電子署名、遠隔医療、加古川市の見守りカメラ、マネーフォワード、Uber、Airbnbまで。
世に広がるテクノロジーとそうでないものは、何が違うのか。数々の事例と、ソーシャルセクターの実践から見出した「社会実装」を成功させる方法。
ロジックモデル、因果ループ図、アウトカムの測定、パブリックアフェアーズ、ソフトローなど、実践のためのツールも多数収録。
デジタル時代の新規事業担当者、スタートアップ必読の1冊。

【目次】

はじめに
第1章 総論──テクノロジーで未来を実装する
第2章 社会実装とは何か
第3章 成功する社会実装の4つの共通項
第4章 インパクト──理想と道筋を示す
第5章 リスク──不確実性を飼いならす
第6章 ガバナンス──秩序を作る
第7章 センスメイキング──納得感を作る
社会実装のツールセット1~10
おわりに

本書に言及している、宮坂さんの記事はこちら

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