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創業記念日、高校生たちにどうしても伝えたかったこと(原田英治)

連載:離島から会社を経営する
創業20年目の節目に、生活の拠点を島根県・海士町に移した著者。地方創生の先進地として知られ、全国から大勢の人が訪れる海士町での暮らしは、経営者としての思考や価値観にどんな影響をもたらすのか。1年にわたる島暮らしでの気づきを綴る。

人脈の広さは、目の前の人をどれだけ大切にできるかで決まる

隠岐島前高校で1年生と3年生に講演する機会をいただいた。偶然にも、講演日は創業記念日。19年を振り返りながら「いま自分が高校生に伝えたいことは何だろう?」と考えると、彼らに人脈について話そうと思った。

「6 degrees of separation(6次の隔たり)」という仮説がある。自分が直接知っている人を1degreeの関係と呼ぶ。そして、1degreeの友達の友達は、自分にとって2degreeの関係。そのまた友達は3degreeで、6degreeまでいくと全人類と繋がるという考え方だ。

この仮説に出会うまで、1degreeの友人数が多いことが人脈の広さだと漠然と思っていた。しかし考えてみれば、全人類と1degreeの友人になることは物理的に不可能だ。そもそも人脈の広さとは、付き合いきれない数の友人と浅い関係を築くことではなく、目の前の友人(1degree)をいかに大切にできるかだと気づいた。

今日名刺を交換したばかりの人も1degreeの関係と言えなくもないが、自分の友達や、ましてや友達の友達を紹介しようと思うことは稀だ。そう思えるようには、名刺交換を超えた関係の深さが求められる。つまり、1degreeの関係が深ければ深いほど、2degreeや3degreeの人脈ネットワークを引き出せるということだ。

考えてみると、出版という仕事は、1degreeの関係を深めていくのに適している。企画から本になるまで、短くとも6か月、長いときは1年以上にわたって著者に向き合う。それはまさに1degreeを深めるプロセスだと言える。

そしてありがたいことに英治出版の本は、以前お付き合いした著者からの紹介で実現するケースも多い。自分はろくに本を読まないのに出版ビジネスが性に合うのは、本質が活字にあるのではなく、著者を応援することにあるからなんだと思う。

目の前の人との会話は、世界を変えるくらいのインパクトを持ちうる

この話をしながら、意外にも高校生の評判がよかったのは、「誰と1degreeの関係を深めるか」だった。嫌いな相手とは仕事をしないと決めている。もちろん嫌いな相手を無視してよいと言っているわけではなく、当然、社会人になれば付かず離れず大人な対応をする。

でも、自分の1degreeを「仲間」、「友達」、「知人」、「会ったことある人」と分布したとき、仕事を一緒にするなら「仲間」がいいに決まっている。仲間と思える関係だからこそ、2degreeや3degreeといった人脈ネットワークの階層が引き出され、お互いの人脈が拡がる。

人脈という観点では、博愛的に、誰彼とも平等に仲良くすることは効果的でないように思う。学校には生徒同士は仲良くするという前提があり、そのことで自分の力が削がれてしまう生徒もいることが、講演後の個別質問の反響でわかった。

そして高校生たちには最後に、目の前の人との会話は、実は世界を変えるくらいのインパクトを持ちうるという話をした。

例えば、僕とあなたが会話をしているとして、僕は自分の2degreeの関係まで想像しながら話をしている。そしてあなたも自分の2degreeの関係まで思い浮かべている。するとこの会話には、僕の2degree、あなたの2degree、僕とあなたの1degree、合計すると5degreeが巻き込まれているとも言える。「世界を変える」というスケールが、あながち絵空事ではなくなってくる。

高校生に話しながら、僕が英治出版を19年経営してきた中で気づき、手ごたえを感じている人脈の考え方を整理できた。隠岐島前高校のみなさん、貴重な機会をありがとうございました。

関係人口が増える、関係深度が深まる、関係資本が貯まる

早いもので、海士町に来て3か月が経った。思えば、巡の環社長の阿部裕志さんとの1degreeの関係が、ここに来るきっかけの一つだった。彼がここで10年間にわたって築いてきた人脈ネットワークを僕の2degreeとした状態で、島暮らしがスタートした。だから、たった3か月で島での人脈は急速に拡がった。

ご縁をいただいた海士町の友人と僕の1degreeの関係が深まることで、島内はもとより、島外にも人脈の拡がりを実感している。英治出版を経営しながら大切にしてきたことが、海士町という新しい土地へ来ても機能していることに、ホッとするような、うれしい気持ちがある。

関係人口が増え、関係深度が深まるにつれ、目には見えない関係資本が貯まっていくのを実感する。いろいろなことに挑戦する土台、環境が整いはじめ、手応えは高まっている。しかし、この関係資本を使って海士町で自分がやるべきことはまだ見えていない。

講演以来、高校生からフェイスブックの友達リクエストが相次いだ。新しい年代の友人たちとの1degreeを深めながら、もう少し関係資本を蓄えていこう。

関係資本の価値は、自分の活動量より、むしろ相手の活動量が高まることに価値がある。高校生たちの活動量の伸びしろを信じて、「誰かの夢を応援すると、自分の夢が前進する」をコツコツやりながら、海士の夏を楽しみたい。

原田英治(はらだ・えいじ)
英治出版株式会社 代表取締役。1966年、埼玉県生まれ。慶應義塾大学卒業後、外資系コンサルティング会社を経て、1999年に英治出版を共同創業。創業時から「誰かの夢を応援すると、自分の夢が前進する」をモットーに、応援ビジネスとして出版業をおこなっている。企業や行政、自治体、NPOなどでの講演も多数。第一カッター興業社外取締役、AFS日本協会評議員、アショカ・ジャパン アドバイザー。(noteアカウント:原田英治