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DX人材は本当にいないのか?─『DX×3P経営』「はじめに」全文公開

2022年1月11日発売の『日本企業のポテンシャルを解き放つ――DX×3P経営』(福原正大著)の「はじめに」を公開!「DX」という言葉が日々登場するなかで、これまでの議論の中でも語られていない「空白地帯」とは? 3P(Philosophy・People・Process)のフレームワークをもとに全社をあげた「DXに強い人と組織づくり」の方向性を示す本書への思いが綴られます。

『DX×3P経営』「はじめに」

日本企業は、このままGAFAに圧倒され続ける存在なのだろうか?
決してそんなことはない。日本企業には大きなポテンシャルが秘められており、今こそDXによって解放できるはずだ。

これが、本書全体を通して私が皆さんにお伝えしたいことです。

いま、「DX」という言葉はビジネスシーンで毎日のように飛び交っています。

ニュースサイトや新聞での話題には事欠かず、「DX推進部」のような専門部署を新設する企業が増え、関連書籍が続々と出版されています。

このような状況のなかで、「私がDXに関する本を書く意味はあるのだろうか?」と何度も考えました。多くの素晴らしい識者がDXについてさまざまな知見を提供しているなか、果たして私の考え方が通用するのだろうか、と。

しかし、これまで多くの経営者、人事、DX担当者と意見を交わし、複数企業で実際にDXの推進支援をするなかで、これまでの議論であまり語られていない空白地帯とも言える領域があり、逆にそこが伸びしろになっている、ということを強く感じるようになりました。

それが、本書のテーマである「DXに強い人と組織をどうつくるのか」であり、それを実現するのが「DX×3P経営」というアプローチです。

「3P」とは「ヴィジョンと哲学(Philosophy)」「人材戦略(People)」「プロセス(Process)」を指し、イノベーションを志向する企業の必須要素として語られているものです。

これまでのDXを巡る議論では、主に「テクノロジーを活用して、どのように戦略を立てて事業や業務をアップデートするか」に焦点が当たっていました。もちろん、このこと自体は決して間違いではありません。

しかし、私が実際に現場で見ることが多いのは、「DX推進」ばかりに目が行ってしまい、「そもそも企業はどこに向かい、どんなDXを実現したいのか」「どんな人材がそれを担うべきなのか」「DXへの抵抗感にどう対処すべきか」「組織はどう変わるべきか」という本質的な議論がないまま進んでいる状況です。

そのため、「DXを推進しろと言われるが、どこから手をつければいいかわからない」「DXに取り組んでいるけれど、うまく進んでいるように思えない」といった悩みを抱えている方が多くいるのではないか、と感じています。

一方で、ダイキン工業、日本郵便、ライオンなど全社でDXを進めている会社を見ると、どの企業にも共通するのが、どんな未来が来るのか、自社はどこに向かいたいのかという「ヴィジョンと哲学」に真剣に向き合っていることです。たしかに不確実性はますます増していますが、そのなかでも大きな変化を見つめ、自社のあり方を問い直すことの重要性は変わっていません。

さらにそうした企業は、やはり事業や戦略だけでなく、本気で人と組織の変革に取り組む姿勢を見せています。私たちは、AIを使った360度評価ツールの導入、人材能力(コンピテンシー)のアセスメントとデータ化、経営相談やDX人材研修などさまざまな領域で人材・組織変革を支援させていただいています。日々、経営者や現場の人々と関わるなかで、「硬直した日本企業」という一般的に持たれやすいイメージとは真逆で、危機感と好奇心を持って新しいことに挑戦しようという気概を持った人が多くいることに、勇気づけられています。

いま、こうした企業が想像を超える結果を生み出し始めており、そこに多くの日本企業にとって大きな示唆があり、それを共有したいという思いから本書が生まれました。

「うちの会社は大きすぎて、昔ながらのビジネスをやっているから、DXができる人材がいない」という声をよく聞きますが、実際にはそんなことはありません。私たちはこれまで累計60万人以上の人材能力をデータ化してきましたが、どの企業にも創造性にあふれる人材はいます。

ただし、かなり少数派であることも事実であり、しかもその創造性をうまく活かすような施策はほとんど実施されていません。逆に、そうした数少ない潜在能力を持った人材を見出してチャンスを与えれば、驚くほどのパフォーマンスを発揮する姿も見てきました。

また、テクノロジーやDXに否定的な考えや抵抗感を「DXバイアス」と私たちは呼んでいますが、そうしたバイアスを持つ人であっても、その後のフォローアップによってバイアスがかなり改善されることがわかっています。実は、これまで「抵抗者」として振る舞っていたような人が、フォローアップを受けて「DX推進者」になる事例も出てきているのです。

伝統的な日本企業であっても、人材の潜在能力は欧米トップ企業と比べても遜色ありません。

また、ビジネスモデルも遅れをとっているとは思いません。実際、GAFAのようなメガ企業であっても、リアルのモノ・サービスづくりに強い企業に対して大きな危機感を抱いています。なぜなら、リアルのビジネスに強い企業こそ、DXを実現すれば競合になりうると考えているからです。だから私は、経営トップが新しい時代に沿ったヴィジョンを示し、真剣に人と組織の変革に取り組んでDXを推進していけば、その大きなポテンシャルを解放できるはずだ、と確信しています。

本書でも何度か登場するダイキン工業の井上会長がよく発言されている、「戦略が二流でも、実践が一流であればいい」という言葉は、DXを推進するうえでも示唆にあふれています。きれいな事業戦略を描ききれなくても、それを実行する人と組織が強ければ、必ず成功に向かって進んでいくでしょう。

そのため本書でも「人と組織に焦点を当てたとき、DXを実現するために何ができるのか」を意識しながら、実践に向けた重要な考え方やアプローチをお伝えしようと努めました。

1章では、実際にDX推進に成功している伝統企業の事例を示し、「DXを始めるにあたって、そもそも何を考えなければいけないのか?」という論点を考察します。

2章では、これからの社会の変化とDXの本質を紐解くことを試みます。そして、私たちの人材データから見えてきた日本企業の課題についても示します。

3~5章では3Pのそれぞれの領域について、DXを進めるうえで何を問い直し、実践していくかのヒントをお伝えします。

2〜5章の章末には、読者が自社について考えを深めるために「振り返りのためのチェックリスト」も用意していますので、ぜひご活用ください。

本書で扱うテーマは全社的な領域に広がっているため、すべてを実践するのは難しいと感じるかもしれません。それでも、たとえば少人数のチームをつくり、未来の社会や会社のヴィジョンについて考えてみよう、自分たちのコンピテンシーを探ってみよう、事業づくりのプロセスを変えてみよう、と小さな実験を始めるだけでも大きな一歩です。

世の風潮に流されるのではなく、本質的に自社がどうDXを進めるべきかを考えたい経営者やDX担当者。来るデジタル社会に向けて、どのように人材育成すべきかを模索する人事担当者。それぞれの現場で奮闘される方々にとって、1つでも「いまできること」を見出す一助になることを願っています。

[著者]
福原正大(ふくはら・まさひろ)
Institution for a Global Society株式会社(IGS)CEO
一橋大学ビジネススクール特任教授
慶應義塾大学経済学部特任教授
慶應義塾高校・大学(経済学部)卒業後、東京銀行に入行。フランスのビジネススクールINSEAD(欧州経営大学院)でMBA、グランゼコールHEC(パリ)で統計学の修士号を最優秀賞で取得。筑波大学で最適化と極値論の研究を行い博士号取得。2000年世界最大の資産運用会社バークレイズ・グローバル・インベスターズでAIを利用したモデル運用に携わる。35歳にして最年少マネージングダイレクター、日本法人取締役に就任。
2010年に、「人を幸せにする評価で、幸せをつくる人を、つくる」ことをヴィジョンにIGSを設立。ビッグデータとAI、そして脳科学の知見を基にした、科学的かつデータドリブンなDX組織改革コンサルティングを大企業中心に行っている。
主な著書に『ハーバード、オックスフォード…世界のトップスクールが実践する考える力の磨き方』(大和書房)、『AI×ビッグデータが「人事」を変える』(朝日新聞出版社)、『なぜ、日本では本物のエリートが育たないのか?』(ダイヤモンド社)などがある。
※掲載にあたり一部太字にするなどの変更を行っています。

【1/17 出版記念イベント「伝統企業にしかできないDX」オンライン開催!】

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毎日のように取り上げられるDX(デジタル・トランスフォーメーション)ですが、多くの企業がどのように進めていけばよいか模索が続いています。

DXの取り組みの多くは事業戦略に焦点があたっていますが、近年は「DXに強い人と組織づくり」も重要だという認識が高まっています。とくに伝統的な企業では、どのように既存事業と組織改革を両立できるのかが大きな課題となっています。

今回は、ヴィジョンと哲学・人材戦略・プロセスという3方向からなる全社改革を説く『DX×3P経営』著者の福原正大氏と、巨大企業で人材改革に取り組む日本郵便執行役員人事部長の三苫倫理氏が、「伝統企業にしかできないDX」をテーマにそれぞれの知見が共有されます。

ぜひ奮ってご参加ください。

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