アートのちから:長期入院の子どもへ届けたい、夢中になれる時間(松本恵里:スマイリングホスピタルジャパン)
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アートのちから:長期入院の子どもへ届けたい、夢中になれる時間(松本恵里:スマイリングホスピタルジャパン)

プロのアーティストとともに小児病棟を訪問し、子どもたちへアートを通して夢中になれる時間を届けている、認定NPO法人スマイリングホスピタルジャパン(SHJ)。英治出版は、SHJを立ち上げた松本恵里さんの書籍を出版予定です。
新型コロナウイルスの感染が広がり病院に訪問できない状況が続くなかで、私たち編集チームは、なぜこの活動を子どもたちが必要としているのかをお伝えすることで、活動再開への後押しをしたいと考えました。活動が制限されるなかで松本さんが感じる活動の意義と想い、ぜひお読みください。
(追記:21年6月9日発売)

成長の日々を、病院で過ごすことになった子どもたち

──まず、SHJの活動について教えてください。

SHJは、小児がんなどの難病や重い障がいのため長期入院する子どもに、アートを届ける活動をしています。

病院は治療するところというイメージがあると思いますが、長期入院している子どもにとっては、治療だけでなく生活をする場所です。治療によって制限される生活のなかでも、子どもたちが毎日成長していることに変わりはありません。

ですが、病院の中の学校(院内学級)の教員をしていたころに、制限された生活のなかでは、受け身になりやすかったり、自分からすすんで経験できる機会が少なかったりすることに気がつきました。「アートを通して子どもたちが夢中になれることと出合う機会を増やしたい!」という想いで2012年に始めたのが、子どもたちが参加するアートです。プロのアーティストが「見せる」だけではなく、「一緒にやる!」ことを大切にしています。

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松本恵里(まつもと・えり)
認定NPO法人スマイリングホスピタルジャパン代表理事
1960年東京都生まれ。外資系銀行勤務、子育て中に教員免許取得。2005年東京大学医学部附属病院内、都立北特別支援学校院内学級英語教員に着任。09年国立成育医療研究センター内、都立光明特別支援学校院内学級同教員に。病院の子どもたちと過ごした7年間を通して、子どもたちが生きる喜び、自信、達成感を取り戻すために必要なことは何かに気づき、それを形にするため、12年NPO法人スマイリングホスピタルジャパンを設立。

──一緒にやる!アート、具体的にはどのようなことをしているのでしょうか?

本当にさまざまです。ジャズ、POP、ボサノヴァ、アニメソング…さまざまな音楽を一緒に歌って演奏したり、絵本を一緒に読んだりします。紙芝居を見せるときや、大道芸人が技を披露するときは、子どもたちを巻き込みます。それに季節の行事に合わせた工作やアーティストオリジナルの塗り絵も。どの活動でも、アーティストと子どもが一緒になって夢中になれる時間です。

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コロナでさらに制限される、小児病棟の生活

──今年は新型コロナウイルスの感染が広がり、病院への訪問が難しくなったと伺っていますが、活動の状況はいかがでしょうか?

活動は20年3月からずっとお休みしています。7月に広島で再開しましたが、再び感染が広がって、またお休みになってしまいました。コロナの感染が広がる前は15都道府県44箇所で活動していたのですが、現在は病院での活動はできていません。

──病院の子どもたちの状況も気になります。

そうですね、子どもたちの生活は、さらに制限されるものになってしまいました。もともと、入院している子どもたちは、面会できる人が限られ、友達と集まって遊ぶ機会もとても少ないのですが、感染対策によってさらに少なくなっています。

家族との面会時間もすごく短いし、家族以外の人とは面会できないと聞いています。病院の中の学校(院内学級)は時間割通りに授業しているようですが、多くがオンラインでの授業になっているようです。また、プレイルームに集まれないので、放課後に仲間と遊ぶこともできなくなってしまったと聞いています。

コロナの感染対策が無い状況でもたくさんの制限があったのに、さらに行動が制限され、子どもたちは退屈しているだろうし、寂しいだろうなと思います。「感染がこわいから、じっとしていなさい」というだけの状況にならないでほしいと感じています。一日一日、子どもたちは成長していき、多様な学びの時間が必要です。

「できた」と思う瞬間をプレゼント

──感染リスクを考慮しながらも、子どもたちが楽しむ機会をつくる工夫が必要ということですね。SHJでは、どんな取り組みをされていますか?

訪問する代わりに、塗り絵、紙芝居づくりといったアクティビティを病院にプレゼントする活動を始めました。

「キミだけのオリジナルステッカーをつくろう!」という活動では、子どもたちに絵を描いてもらい、それをステッカーにして送り返します。

フォーマットがあるのですが、枠を飛び出した絵もたくさん届いて、嬉しくなりました。はみ出し満載の絵を業者さんに送ると、「誰もが巨匠ですね! はみ出した絵をそのまま切り取ってしまうなんて勿体無い。このままステッカーにできるように頑張ります!」と言ってくださって、もう感動です。

また、音楽や紙芝居、工作の動画も配信しています。オンラインのライブもしたいところですが、現場スタッフの負担があるため難しいですね。病院の負担に配慮しながら日々、活動を模索しています。

訪問しなくても、子どもたちが「自分はこんなものつくりたい!」と創造的になれるアクティビティのアイデア、大募集中です!

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──新たなかたちでの活動の中で工夫していることはありますか?

見たり聞いたりするだけでなく、自分で実際に手を動かして「できた」と思う瞬間をつくることを大事にしています。演奏の動画を聞いてただ癒されるのではなく、例えばベッドから手の届くものや身体をパーカッションにして、子どもが一緒になって演奏することができます。身近なもので工作ができちゃうというものもあります。

そういった動画が、なにか手を動かすきっかけや、身近なもので工夫してみようと思うきっかけになればと思っています。

入院していると、もちろん痛いことはたくさんありますし、治療は基本的に受け身なこと。自分のせいで親が悲しんでいて辛い…と罪悪感を持つ子どももいます。だんだんと気持ちが内向きになり、自信をなくしやすいんです。

だけど、自分の可能性に気づいてほしいし、創造的になってほしい。主体性を引き出せるようにと工夫しています。そんな気持ちになれる動画をぜひお願いします!とアーティストに伝えて作っていただいています。

一緒に体を動かしたくなる、リズムあそび「夏のおさんぽ」

「プロのアーティスト」がファシリテーターである理由

──自然と主体的になれるようなきっかけづくりが、活動の重要なポイントですね。コロナ以降、これまでの活動との違いはありますか?

これまでは、子どもたちとアーティストが同じ場所でふれあい、やりとりをしながら子どもたちの主体性を引き出していました。

参加したくないと言っていた子どもが、プレイルームからいろんな音が聞こえてくると、だんだんと「おもしろそう」「やってみたい」と思うようになり、少しずつ一緒に楽器を鳴らすようになったりします。子どものリクエストに応えて歌うアーティストもいます。

手が思うように動かせない子どもも、途中までサポートすると、できないという思いが消えるのか、その先は夢中で工作をします。ちょっとしたやりとりが、やりたいという気持ちを引き出していたのです。

アーティストは、プロとしてのたくさんの引き出しを持っているので、子どもの様子を見ながら、活動内容を臨機応変に変えて、うまく主体性を引き出すことができます。

隣で見ていると、子どもがどんどん夢中になっていくのがわかります。これは、技と知恵を持つアーティストだからできること。私たちの活動の特徴である「プロのアーティスト」がファシリテーターである理由です。

──これまでの活動では、アーティストとのやりとりが、子どもたちの「やりたい」を引き出していたのですね。

子どもたちを近くで見守っている保育士さんや理学療法士さんからも、心が内向していた子どもたちの表情が変わったという驚きの声をいただいています。

ご家族からも、「治療のことばかりを考えていて子どもの成長のことに頭が回っていなかった」「入院生活でもあんなに笑って楽しむことができるんですね」といったお話を聞くことができました。

──子どもだけでなく、まわりの方にも活動の意義を感じてもらえていたのですね。

一緒にやる!アートだからこそ、アーティストたちとの交流が生まれ、他の子と交流するきっかけにもなります。次にSHJのアーティストが来るのを楽しみになることで、日々の闘病生活も変わります。

小児病棟の子どもたちにとって、病院はただ治療を受ける場ではなくて、成長する場。人との関わり合いを楽しむ気持ちは、子どもたちの成長につながり、そして私たちSHJの存在意義だと感じます。だからこそ、いま子どもたちがアーティストと生のふれあいができないのはもどかしいです。

どんな子どもたちも、自分の世界を広げ、自分らしく生きるために

──活動の形を変えざるをえない中で、SHJの仲間と改めて共有したい想いを教えてください。

多様な学びによって、子どもたちの生が輝いていくと思います。命を守ることと成長の糧となる文化的な活動を両立すること、そして入院生活であっても子どもの成長を支援することを、医療者やアーティストと共に大切にしていきたいです。

いくら私たちに想いがあっても、病院の方針に従う必要があります。病院のガイドラインにしっかり応え、人数を制限するなどの工夫をしながら一緒にやる!アートを届けていきたいです。

アーティストたちは「興味を示していなかった子どもたちも夢中になっている姿を見ると、改めてアートのちからを感じることができた」「夢中になることで、生きることが豊かになることに気づかせてくれた」と話してくれます。

今は子どもたちの反応が見られない状況なので、喜びや手応えを感じづらいことがあると思いますが、活動が再開されるまでしっかり想いを共有したいです。

──SHJに関わっている方に限らず、教育関係者など子どもの成長に関わっている方にメッセージはありますか? 

どんなに苦しい立場や状況に置かれた子どもでも、自分の世界を広げ、自分らしく生きることができると、私はSHJの活動を通じて学びました。そして、大人の役割は、子どもたちが自分の世界を広げられるような環境をつくることだと思います。

私たちの活動も、アートを通して自分の可能性に気づいてもらえるような環境づくりです。障がいがあるからできないだろうと判断するのではなく、どんなところを補えばいいだろうかと考え、一人ひとりの子どもにとって一番いいと思える環境をつくること。そうすることで、子どもたちはできたことを積み重ね、自信をつけていき、自分の世界を広げられるのではないでしょうか。

これは病気と闘っている時だけではなくて、これから社会に出て、違った困難にぶつかった時の糧にもなります。なので、いまこの瞬間だけでなく、子どもたちの生涯の宝物を一緒につくるという想いで活動しています。

──子どもたちが自分らしさを発揮できる環境を、みんなで作っていけると良いですね。

そうですね。在宅での医療的ケアが必要な重度心身障がいの子どもを訪問し、学びをサポートする活動を新たに始めました。障がいは子どもによって異なるため、一人ひとりにあった教材をつくる必要があり、子どもそれぞれの環境をつくることの大切さを感じています。20年7月に教材図鑑を作成したのですが、たくさん問い合わせをいただき、大きな反響がありました(こちらをご覧ください)。

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在宅で医療的ケアを受ける子どもたちは、外出の機会が限られ、家族の方々も家にこもりがちです。子どもが体調の安定している時に出向いて学習でき、付き添う家族の方々も孤立しないような集いの場所をつくることが、ひとつの夢です。SHJの教材を展示して、子どもが自分で選んだり、家族や特別支援教育の関係者が手に取ってみたりできるスペースをつくりたいです。

また、退院した子どもがふらっと立ち寄って話をしたり、SHJの活動を手伝ってもらったり、アーティストが打ち合わせをしたりする多様性のあるスペースにしたいと思っています。

子どもたち一人ひとりに一緒にやる!アートを届けるなかで、私たちもまた自分の可能性に気づかされることがたくさんありました。子どもやアーティストと一緒に成長しながら、活動を続けていきたいと思います。

──ありがとうございました!

活動を応援したい読者の方へ

寄付をしてサポート
活動を継続発展させるために寄付や会員を常時募集しています。スポットの寄付のほか、マンスリーサポート会員も募集を始めました。月500円のサポートで1回の訪問ができ、約20名の子どもたちに笑顔を届けることができます。詳しくはこちらをご覧ください。

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