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『社会変革のためのシステム思考実践ガイド』編集者インタビュー:下田理(EIJI Books)

『ティール組織』、『なぜ人と組織は変われないのか』などの本を世に出してきた下田理(英治出版 プロデューサー)に、『社会変革のためのシステム思考実践ガイド』を出版した経緯や、本づくりでのこだわりを聞きました。

Q1:どうして今この本を世に出したいと思った?

英治出版に入社してから貧困や紛争などの問題を解決する新しいアプローチを紹介する本をいくつかプロデュースしてきたのですが、ふとこんなことを思ったんです。

一人の社会起業家、一つの組織に焦点を当てた本は、力強いストーリーできっと多くの人を勇気づける。一方でここ数年、似たような本が数多く出てきた。別の視点でどんな本が求められているだろうかと。

そんなときに、『社会的インパクトとは何か』という本をプロデュースしました。これは、事業や活動によって生じる成果を把握・評価して、本質的な変化を生み出す方法を説いた本です。

この本がきっかけとなり、いま必要なのは多様な関係者によって集合的に社会課題を解決する「コレクティブ・インパクト」の理論と実践を伝えることなのではないか、という問題意識を強く持つようになったのです。

Q2:この本の原書はどうやって出合った?

3年前のフランクフルト・ブックフェア(世界最大の書籍見本市)に参加した同僚が、本書の原書である"Systems Thinking for Social Change"の情報を共有してくれました。著者のストローさんは、英治出版が以前出版した『世界はシステムで動く』『システム思考をはじめてみよう』のドネラ・メドウズさんに師事され、システム思考を社会変革プロジェクトに活用した実績の持ち主。

その豊富な実践にもとづいた知見が盛り込まれているのであれば、これこそ求められている本ではないか、と思いました。ソーシャルイノベーションの分野では、システム思考がますます重視されるようになっていましたが、事例が少ないのが課題でした。

本書で紹介されているのはアメリカの事例ではありますが、ホームレスの撲滅や教育格差の是正など、日本にも共通する課題が盛りだくさん。何より、ときには対立する関係者が、システム思考と対話を通じてどのように協力関係を築いたか、というリアルなプロセスが描かれているので、日本の実践者にも役立ててもらえる確信がありました。

Q3:本作りでこだわったことは?

訳文や本文デザイン、装丁やタイトル、もう全部じっくり考えて作り込んだのですが……特に力を入れたのは、訳注ですね。最初に原書を読んだとき、この本はシステム思考をある程度わかっていることを前提に書いているように感じました。システム思考の本を読んだことがある人やトレーニングを受けたことがある人なら、特に問題なく読み進められると思います。

でも、システム思考を知らなかった人にも読んでほしいと思ったので、監訳者の小田理一郎さんとも相談して、日本語版ではシステム思考の基本知識や用語を、なるべく訳注として本文に挿入しようということになりました。

この本が一般的な本と比べて縦長(『イシューからはじめよ』『世界の経営学者はいま何を考えているのか』と同じ判型)なのは、訳注をたくさん入れても見た目の圧迫感がないように、ある程度の余白を作りたかったからなんです。

Q4:小田理一郎さんに監訳と解説をお願いした意図は?

原書を読んだ時に真っ先に頭に浮かんだのが小田さんでした。『なぜあの人の解決策はいつもうまくいくのか』『「学習する組織」入門』『システム思考』などの著書や訳書がある。

システム思考のトレーニング講師の経験も豊富。コクリ!プロジェクト(個人の変容を通して社会の地域や社会の変容を起こそうとする取り組み)をはじめとするソーシャルイノベーションの実践知もある。それからこれは後で知ったのですが、小田さんは著者の方ともお知り合いでした。

解説は、「システム思考にまつわる小田さんの実践知を存分に書いてほしい」とお願いしたところ、これだけで本になるのではないかと思うほどの知識と熱量をもって「システム思考を実践する10のコツ」を書いてくださいました。

また、「変化の理論(セオリー・オブ・チェンジ)」のモデル説明も、小田さんの解説の見どころです。

変化の理論(セオリー・オブ・チェンジ)とは、社会問題の構造を理解した上で、実現したい目標に向かってどんな取り組みやリソースが必要かを考えるフレームワークのこと。

日本でも「変化の理論をつくろう」という流れが盛り上がってきていますが、どうしても自分の団体を変革の中心に置いてしまったり、変革のプロセスを一方向の矢印で考えてしまいがちのようです。社会変革をシステムとして捉えて考えることの面白さがわかる、という意味でも小田さんの解説はぜひ一度読んでみてほしいです。

Q5:井上英之さんに日本語版まえがきをお願いした意図は?

一言で表すなら、「社会課題の解決に関心ある読者との橋渡し」です。ソーシャルイノベーションの専門家として、これまで長年にわたって若手の社会起業家育成に携わってこられました。その視点から、なぜ今コレクティブ・インパクトなのか、コレクティブ・インパクトはどういうものなのか、なぜ本書が日本の実践にとって必要なのか、ということを説明してもらうようにお願いしました。

井上さんご自身もシステム思考の実践家であり造詣が深く、小田さんともさまざまなプロジェクトで協働されています。そのご経験から生まれた、「システム思考は一見左脳的に見えますが、実は体感や感情も同じくらい大切です」というメッセージはとても示唆に富んでいると思います。

Q6:この本がどう広まっていくことを期待していますか?

この本に限らない話ですが、「書いてあることをそのままやったらうまくいく」わけでは当然ありません。本書では多くの事例があり、また汎用性の高いツールやメソッドを紹介していますが、それでも読者それぞれの環境があるので、どうしても応用が求められます。

ですので、この本の広がり方としては、「実際にやってみたら、こういう気づきがあったよ」「この部分は別のやり方もあるかもしれない」みたいな、学びが交換される場が増えてほしいと思っています。

そういう思いもあって、12月13日に本書の出版記念イベントを開催します。システム思考やコレクティブ・インパクトの細かい説明は本書に譲り、システム思考を現場でどう使うかを思いっきり語り合う場にしたいと考えています。

登壇者は、小田理一郎さん、井上英之さん、そして、NPO法人かものはしプロジェクト共同代表の本木恵介さんです。かものはしさんは、数年前からシステム的なアプローチを使って関係者の知恵と力を集めることに挑戦しています。学びながら実践に活かし、組織内でのフィードバックも行っている姿は、まさに「学習するアプローチのロールモデル」です。

『社会変革のためのシステム思考実践ガイド』
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●EIJI Booksとは?
英治出版の本を紹介するコーナーです。話題書の著者や編集者へのインタビュー、新刊の本文一部公開、著者と有識者との対談などを通して、「いい本とのいい出合い」を増やしたいと思っています。

●『社会変革のためのシステム思考実践ガイド』とは?(2018年11月発売)
一つの組織ではなく、幅広いコラボレーションによって社会全体で問題解決を目指す「コレクティブ・インパクト」という手法が、いま注目を集めています。ここ数年、関連するイベントや取り組みが急速に増え、2018年の政府の「骨太の方針」にも盛り込まれました。
そして本書は、アメリカで20年以上にわたってシステム思考を使った社会変革に取り組んだ著者が、豊富な事例と知見をもとに実践的なプロセスを紹介。まさに「コレクティブ・インパクトの実践書」と言える一冊です。

社会変革のためのシステム思考実践ガイド』の編集者インタビューをお読みくださり、ありがとうございます。記事の中でご紹介した出版イベントのレポートは後日公開する予定です。どうぞお楽しみに。
英治出版オンラインでは、連載著者と読者が深く交流し、学び合うイベントを定期開催しています。連載記事やイベントの新着情報は、英治出版オンラインのnoteFacebookで発信していますので、ぜひフォローしていただければと思います。(編集部より)


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