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「一人の天才よりチームの方が創造性は高い」と、わたしが信じる理由(村瀬俊朗)

ここに、多様な経験や知識を持ったメンバーがいる。だれもが、人々を熱狂させる商品・サービスを生むために懸命に取り組んでいる。しかし、出てくるのは凡庸なアイデアばかり。メンバー一人ひとりの専門性や見識が活かされない。――やはり、創造性とは「孤高の天才」に宿るのか。チームで新しい発想を生みだすことはできないのか? 10年以上にわたりチームワークのメカニズムを研究してきた気鋭の経営学者が「チームの創造性」に迫る。
連載:チームで新しい発想は生まれるか

創造性を生み出すのは、個人かチームか?

競争社会で生きるわれわれは、常に新しい発想を模索し続けなければならない。この作業は決して容易ではない。

スティーブ・ジョブズやアインシュタインに代表される孤高の天才が革新的な発想を生み出すのを見ると、自分の才能に自信を失ってしまう。創造性個人主義論が広く社会に浸透すればするほど、多くの人が創造性は個人に帰属すると思ってしまう。一方で、グーグルの創業者のように、チームこそが創造力の源だと信じる人もいる。果たして、どちらの神話が正しいのだろう。

私はチームを研究する者として、「孤高の天才」神話に真っ向から対峙し、チームこそが新しい発想を生み出す装置だと主張したい。

そもそも、発想とは何か。「考えが浮かぶ」や「知恵をひねる」など表現はいろいろある。人は、これまで蓄えてきた頭の隅々に散らばる知識や情報を手繰り寄せて、組み合わる。情報を集めて組み合わせる一連の流れこそが思考プロセスであり、この過程の結果が発想である。この定義のもと「奇抜な発想」の特徴を探ると、奇抜さとは容易に到達できない組み合わせであることがわかる。

たとえば、住宅のすぐ脇を走る新幹線の騒音はエンジニアの長年の課題であった。騒音の原因は、車体に電気を供給する装置(パンダグラフ)の突き出た「髭」にあった。鉄髭が高速で風を切り騒音を生んでいたのだ。

解決の糸口となったのはフクロウの羽。フクロウの羽の先端はギザギザの形状をしていて、風を拡散し、音を消していた。この構造を応用することで、新幹線の騒音は大幅に減った。自然界から解決の糸口を見つけ、人間社会の問題と組み合わせたのだ。このような離れた領域の組み合わせは、新しい奇抜な発想へとつながる。

しかし、新しい発想を生み出す際、私たちの「思考の枠組み」が邪魔をする。思考の過程では常にこの枠組みが誘導役を担う。複雑な世界の理解を円滑にするために、私たちは「世界の成り立ちはこういうもの」と経験や学習を通じて感じ取り、思考の枠組みを構築する。

枠組みは特定の情報に光を当て、枠組みに沿ってそれらの情報を解釈することで、複雑な世界を簡素化することができる。このおかげで私たちの思考の多くの部分が自動化されるが、同時に特定の思考過程の囚人となり、奇抜な発想が難しくなる。

チームが持つ潜在能力

チームの潜在能力は、様々なメンバーの領域をまたぐ知識だ。チームは各メンバーが有する経験や専門性に基づく知識を持ち寄ることで、個人では持ち得なかった知識の幅と深みが得られる。メンバー間の専門性や経験の違いから全く異なる知識や意見が飛び出し、それによって各メンバーは脳の片隅にしまってあった知識が刺激され、さらに多くの情報が引き出される。

チームメンバーが複数人いるということは、思考の枠組みが複数あることを意味する。それら一つひとつの枠組みは特定の方向に世界を簡素化するが、枠組みが複数あることで、メンバー一人ひとりに、個人では意識できない情報を強制的に意識させ、新しい解釈を引き出す。

たとえば、クルマを「走りを楽しむ」か「子供のいる生活を向上させる」か、どちらの枠組みで考えるかでまったく異なる発想につながる。後者の場合、子供が自転車で遊びに行く状況が頭に浮かび、車内が広いクルマの設計へとつながる。

「子供の自転車」というキーワードは、子育て経験のない設計者の枠組みからは、なかなか生まれにくい。だが、メンバーの異なる枠組みが触れ合うことで新しい視点が生まれ、今まで当たり前だったイメージに疑問を投げかけるようになる。

つまりチームの強みとは、外の世界から多くの情報を獲得できることだ。メンバーの多様性は、メンバー間の知識の違いだけでなく、メンバーが接する外の世界の違いでもある。

ずっと独身でクルマ好きなエンジニアと、子育てに忙しいマーケティング専門家では、チーム外で会話を交わす知り合いの種類が異なり、それぞれのコミュニティが経験する問題意識も大きく異なる。これら異なるコミュニティに属するメンバーが集まるのが、チームだ。メンバーは、課題や提案をチームのみで議論するのではなく、外の所属コミュニティの仲間の知識や思考回路をも利用できるのである。

個人の限界を越えるチームワーク

ここまで読んでいただけたら、チーム最強伝説を少しは信じていただけるのではないだろうか。「孤高の天才」とは神話なのだ。チームは個人よりも「新しさ」を創造する潜在能力が圧倒的に高い。

一方で、チームの潜在的発想力が、個人の業績に駆逐されるケースも散見される。たとえば、スパイダーマンに代表されるアメリカンコミックの中古市場調査では、チームの作品よりも個人の作品のほうが高価であるケースが見受けられる。また、特許の人気度(後に申請された特許の基盤となるか)を調査した研究では、メガヒットと呼ばれる特許は個人の業績であることが多い。

潜在能力が高いはずのチームが、なぜ新しい発想を生み出せないことがあるのか。潜在能力を発揮できずに終わるチームと、奇抜な結びつきから新しい発想を生み出すチームの違いは何なのか。

――それは「チームワーク」である。

異なるメンバーが集まればチームが成功するわけではない。新しい発想を生み出す「装置」を使いこなすためにはノウハウが必要だ。そこで私はチームワークを、「多様な知識を個人のバイアスを超えて自由に結び付けることができるプロセス」と定義したい。多様な知識をもった多様な人が集まり、個人の創造性を凌駕する創造性を生み出すための最終兵器が、チームワークなのである。

この連載では、個人の能力を超えてチームの潜在能力を最大限発揮させるチームワークについて、読者の皆さんと一緒に考えていきたい。


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連載紹介

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連載:チームで新しい発想は生まれるか
新しいものを生みだすことを誰もが求められる時代。個人ではなくチームでクリエイティビティを発揮するには何が必要なのか? 凡庸なチームと創造的なチームはどう違うのか? 多様な意見やアイデアを価値に変えるための原則はなにか? チームワークのメカニズムを日米で10年以上にわたり研究してきた著者が、チームの創造性に迫る。

第1回:「一人の天才よりチームの方が創造性は高い」と、わたしが信じる理由
第2回:なぜピクサーは「チームで創造性」を生みだせるのか?
第3回:失敗から学ぶチームはいかにつくられるか
第4回:チームの溝を越える「2つの信頼」とは?
第5回:「新しいアイデア」はなぜ拒絶されるのか?
第6回:問題。全米に散らばる10の風船を見つけよ。賞金4万ドル
第7回:「コネ」の科学
第8回:新結合は「思いやり」から生まれる
第9回:トランザクティブ・メモリー・システムとは何か
番外編:研究、研究、ときどき本
第10回:あなたのイノベーションの支援者は誰か
第11回:コア・エッジ理論で、アイデアに「正当性」を与える
第12回:仕事のつながり、心のつながり
第13回:なぜある人は失敗に押しつぶされ、別の誰かは耐え抜けるのだろう。
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