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英治出版は、新レーベル「土着のイノベーション」をはじめます。

社会の変容は、足もとの変容からしか生まれません。
そして、足もとの暮らしを変えていくには、
まちに、土地に、地域に根ざした「まなざし」こそが欠かせません。

地域に長く根を張り、世代を超えて持続的な変化をもたらす
「土着のイノベーション」ともいうべきムーブメント。

世界中で同時多発的に起こっているこの変化の「さざなみ」を、
あるときはその担い手に、またあるときは地域のエコシステムに、
さまざまな角度から光を当て、読み手の暮らしの変容へとつなげる。
そんな想いを実現すべく、英治出版は
コンテンツレーベル「土着のイノベーション」を立ち上げます。

ロゴデザインは、bookwallの松昭教氏

■なぜ「土着のイノベーション」に希望を見るのか

いま、世界的に大きな注目を集めているPlace-Based、つまり、その土地に生きる人たちが織りなすシステムに根ざし、そのシステムを変容へと導く取り組みやプロジェクト

日本においても、システムの変容をもたらしている事例は、その地域の特性や土地性、歴史といったものと密接に結びついたものが目立つようになってきています。

たとえば、福島県いわき市。“主婦”たちのボランティアサークルが始めたリサイクル活動が、30年超の時を経て回収した古着のリサイクル率はなんと90%近くに達し(全国平均は34.1%)、いわきは「古着を燃やさないまち」と呼ばれるまでになっています。一人ひとりの市民が、一歩一歩、地域に根ざして活動し続けてきたことで、まちの「当たり前」を変え、そこで暮らす人の意識を変えたのです。

このいわきの変容を導いたNPOザ・ピープル前理事長で、本レーベル第1弾書籍『想いはこうして紡がれる』著者、吉田恵美子さんはこれまでを振り返ってこう言います。

気づいてしまった人間が、その気づきをもとに一歩動き出す。そのことの積み重ねこそが住民の手による地域づくりであり、国づくりであり、地球づくりであると思うのです。

『想いはこうして紡がれる』「おわりに 後からやってくるあなたへ」より

そのまま生活を続けてもよかったはずなのに、そのまちに根を張っているからこそ「気づいてしまった」問題を見過ごせず、小さな一歩を踏み出す──吉田さんの言葉には、「社会変容」と大括りにして語られるものがどのように始まり、進展していくのか、その実態と本質が込められています。

「土着のイノベーション」では、いわき市で起こったことのような、足もとから立ち上がってきた変容を丁寧に拾い集め、探求していきます。一見、そうした事例の一つひとつは、小さなものに感じるかもしれません。

しかし、不確かな可能性に希望を託し、システムを変容させようとしてきた人たちがいる。まちがある。それも、10年、20年、30年もの長きにわたり、積み上げてきた例も少なからず存在する。であるなら、彼ら彼女らが実現させようとしてきた「希望」とその道程を、今こそすくい上げたい──。

本レーベルは、その土地で紡がれてきた「希望」を、次代へつないでいきます。

■本レーベルが大切にしたい5つのこと

土地に根ざすということは、その地の特殊性を内包することにほかなりません。当事者に寄り添うほどに、広く伝えていくうえでのハードルは高くなり、読者が自分の身に引き寄せて考えてもらうことを重視しすぎれば、当事者の声は薄れていくことになります。

変容の当事者も、
その物語の受け手も、
それを伝える私たち届け手も、
公平に向き合えるようにするにはどうすればいいのか。

それを考え続けるために、本レーベルは5つの「大切にしたいこと」を掲げます。

1 変容の当事者性
  生活・暮らしは、わたしたちの手で変えられるという実感を届ける
2 「私」と社会のつながり
  自分に根ざす取り組みが、社会に根を張る変容を起こす
3 Place-Basedな視点
  土地・歴史に根ざしたまなざしをわすれない
4 ポジティブなレガシー
  世代を超えてつないでいきたい「変化のプロセス」を残す
5 インパクトの可視化
  唯一無二の取り組みに眠る「普遍的な価値」をすくい上げる

■第1弾書籍『想いはこうして紡がれる』を12/14に発売。イベント協力も!

12月14日発売の第1弾書籍『想いはこうして紡がれる』を皮切りに、メディア横断的にレーベルを展開していく予定です。以下、現時点で決まっている予定をお知らせします。

【1】第1弾書籍『想いはこうして紡がれる』の刊行【福島県いわき市】

ブックデザイン:アルビレオ、写真:長谷川恵一

福島県いわき市にあるNPO「ザ・ピープル」。リサイクルやボランティア、NPOという概念が一般に定着する以前の1990年から「住民主体のまちづくり」を目指して多様な活動を展開してきた老舗団体です。特に有名なのは古着のリサイクルのしくみを市民の手でつくりあげたことで、いまやいわきはリサイクル率約90%に達し、「古着を燃やさないまち」と呼ばれています。

また、その派生団体である「ふくしまオーガニックコットンプロジェクト」は、東日本大震災と原発事故による風評被害で耕作放棄地となった田畑でオーガニックコットンづくりを展開、土地だけでなく分断したコミュニティの再生をも成し遂げました。

この両団体を率いてきた吉田恵美子さんが、その33年の活動を振り返り、これまでに何を行い、これから何をしたいのか、そしてこれから一歩を踏み出そうとしている「あなた」に向けて伝えたいメッセージを綴った渾身の一冊。

◉推薦
IIHOE代表 川北秀人氏
「災害、コロナ、格差。社会が変わり続けても、人はつながるから安心できる。ボランティアとリサイクルでつながりを紡ぎ続けた吉田さんから学ぼう」

◉発売日等
2024年12月14日刊行
本体1900円+税
272ページ

◉著者
吉田恵美子(よしだ・えみこ)
特定非営利活動法人ザ・ピープル 前理事長
いわきおてんとSUN 企業組合 前代表理事
一般社団法人ふくしまオーガニックコットンプロジェクト 代表理事

福島県いわき市にて、地域のなかで「住民主体のまちづくり」の取り組みを33年間行ってきた。主たる活動は「古着を燃やさない社会づくり」と、東日本大震災後の地域課題と向き合うなかでスタートさせた「ふくしまオーガニックコットンプロジェクト」。
1990年創設の「ザ・ピープル」に参画し、ごみ問題への関心から古着のリサイクル事業を市民活動で実践。2000年から理事長を務め、いわき市を「古着を燃やさないまち」へと変容させる立役者のひとりとなった。
東日本大震災後、いわきの被災者と原発事故からの避難者とのあいだのすれ違いからコミュニティの分断を危惧し、耕作放棄地でのオーガニックコットン栽培を媒介にコミュニティ活性化を実現、地域課題の解決への筋道をつけた(2021年、ふくしまオーガニックコットンプロジェクトとして一般社団法人化)。
2023年自身の健康上の問題(膵臓がんの発病)から「ふくしまオーガニックコットンプロジェクト」の取り組みを残して、他の活動現場からは身を引くこととなった。2024年11月、逝去。

◉主要目次
はじめに 社会の変化は、ひとりの市民から始まる
第1章 一人ひとりの「気づき」を社会につなぐ――いわきはなぜ「古着を燃やさないまち」を実現できたのか?
第2章 一人ひとりの「葛藤」を尊重し、対話でつなぐ――震災、そしてその後の分断をいかに乗り越えたか
第3章 一人ひとりの「想い」を紡ぎ、仲間とともに変える――「復興後」の未来を、オーガニックコットンに見た理由
第4章 一人ひとりの「ビジョン」が受け継がれ、まちは変わる――地域課題に、終わりはない
第5章 一人ひとりの「私」から未来は変わる――自分自身の声を聞く
おわりに 後からやってくるあなたへ

【2】「CIRCULAR DESIGN WEEK 2024」とのコラボレーション【台湾】

アジアパシフィック地域において、複雑な関係性の中で実践されてきた伝統や慣習、そこから生まれる土地に根ざした循環のデザインの可能性を探求するプラットフォームであるCIRCULAR DESIGN Praxis(CDP)。それぞれの土地の文脈を尊重して学ぶことで、持続可能な社会を支える多様な価値観や仕組みについて深く理解し、分かち合いながら実践することを目的としている“運動体”です。土着のイノベーションは、このムーブメントとコラボレーションしていきます。

直近では、2024年10月に台湾で行われたツアー&カンファレンス「CIRCULAR DESIGN WEEK 2024」に参画。振り返りイベント「Circular Design Week 2024 in Taiwanを振り返る〜Bioregioningから捉え直す循環のデザイン」について協力しました。