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組織が「人と人になる」とき(田中達也:リクルートコミュニケーションズ)

人類の長大な歴史から組織モデルの進化に迫る『ティール組織』。各界のリーダーや研究者はこの本を読んで何を感じたか。平成元年のリクルート入社以来、一貫して「人と組織のコミュニケーションづくり」に取り組んできた田中達也さんが語る。

組織はその拡大のために、人々を機械化する

ウィーン生まれの思想家イヴァン・イリイチは、かつてこう言いました。

「道具は最初、有用性を持って人々に貢献するが、分水嶺を越えると、その拡大を目的化し、人々を機械化する……
たとえば医療は最初、我々を病気から救うために大きく貢献した。しかし今、私たちは医師の許可なしには、自分を病気と主張することもできない」
イヴァン・イリイチ『コンヴィヴィアリティのための道具』筑摩書房、2015年、原書初版1973年 

それから約半世紀。現代の組織の多くは、過去からの仕組みや慣習の維持を目的化し、個々人のタスクをまるで機械のように標準化し、生産性で評価。その結果、人々はますます効力感を失っているように見えます。

人はよく「組織」を、どこか自分と切り離された、手も声も届かぬモンスターのように語ります。「自分が何かしたって、どうせ会社は同じように回り続ける」。そんな効力感のなさが、もやのように広がっている。

これまで30年近く「人と組織のコミュニケーションづくり」に携わり、最近では組織や階層を超えたインナーコミュニケーションづくりに取り組む中で、その問題意識は強くなるばかりです。

「分配と参加、両面の公正」が人の機械化を止める

そんな時に出合ったのが、『ティール組織』。それは私にとって衝撃でした。

前述のイリイチは「分配と参加、両面の公正」が人の機械化を止めると書いています。これはまさにティール組織が実践していることではないかと私は感じました。

上の命令を実行するのでなく、各人が正しいと感じたことを、助言を得ながら自らの責任で実行する。組織図が前提ではなく、実現したい状態のために、全員が関与して最適な形を決め、リソースを分配し日々更新していく。

火力発電所のような巨大な仕組みですら、人が中心に立って関わりあい、真の目的を見据えて変化させ続けていく。彼が理想とする、コンヴィヴィアリティ(Conviviality=自立共生)のひとつの形がここにあります。

さらにイリイチはこう言います。「自立共生的な道具とは、それを用いる各人に、おのれの想像力の結果として環境をゆたかなものにする最大の機会を与える道具のこと」。

道具の考案者に決められるのでなく、一人ひとりが自らの目的や期待に基づいて意思決定しながら、その道具に関わっていく状態を示唆しています。

組織という道具が、一人の人間に把握しきれないほど大きくなり、自分の時間を売って生産性の対価として給与をもらうだけの関係になったとき、人は代替可能な部品のような存在になり、誰しも無力感に襲われます。

しかし、それは組織が本当に望んでいることではないはず。今や、多くの組織が、次の成長を生み出すため、個々人の自発性や創造性をいかにして引き出すかに、頭を悩ましています。

自分の思いや考えに基づいて日々仕事をすることが求められるティール組織は、まさに自立共生な関係から、人の喜びと組織の成長を実現しようとする「新しいコンセプト」なのではないでしょうか。

私もポンコツ、あなたもポンコツ。だからいい。

『ティール組織』は私にとって衝撃的だったと同時に、「これをどう実践すればいいの?」と疑問が残るものでもありました。しかし、この本を読み終えて数か月。実は、ティールを活かすアクションは目の前にある。そう感じられるようになってきました。

キーワードは、「人と人になる」。そのことを気づかせてくれた、あるエスタブリッシュな巨大企業A社のお話をしたいと思います。

ビジネスモデルの変化が予期される中、協働・共創を経営方針に打ち出す企業は少なくなく、A社もその一社。私たちがお手伝いをしていた人事部門の方々は、協働・共創をマネジメント層に浸透させることに苦心していました。

「上意下達で指導されて成長・成功してきた人たちが、互いに正解を持たずに関わりあうことなんて、できるのか?」「ただスキルを教えれば、彼らは動けるのか?」

いくつもの壁に突き当たり、試行錯誤を経て、彼らがたどりついた結論がこれでした。「まず、自分自身が正解を持たないまま深く内省し、それを分かち合いながら、新たな解にたどり着く成功体験を積み上げていくしかない」

今までの文化にないチャレンジを実行した結果、現場のマネジャーから予想だにしなかった活気が生まれていきました。「鎧を脱いで、耳を澄まし、自分の本音を掘り下げてみたら、今まで考えられなかったことが考えられた」「新しい結論が見えてきた」「これを職場に広げたい!」

互いの悩みを吐き出しあい、フラットに助言しあう。内省する。議論でなく対話をする。こうして書くと「きれいごと」のように思えます。でも、エリートの集団であることに誇りを持ってきた人たちが、「わたしもあなたもポンコツどうし。だからこそ、一緒に智恵を出し合おう」と認め合えたときに生まれたパワーの大きさに、我々もA社の人事の方々も、本当に感動しました。

そしてその時、こうした活動に当初は懐疑的だったあるメンバーが、こんなことを口にしました。

「これって組織が『人と人になる』ことなんですね」

「人と人」からはじめる。その難しさに向き合う。

タスクが機械化し、個人の効力感が薄まりつつある組織に向き合うとき、その第一歩は、「人と人」として互いの関わり合いを見つめなおすこと。そして、個と組織の両方が生きる方法をあきらめず模索することなのではないでしょうか。

「ティール組織」とは言えないけれど、先ほどのA社では、新たな組織能力が生まれ始めています。これまでありえなかったシーンがあちこちで生まれ、少しずつ会社が変わっていく手応えを感じています。

次なる進化を成し遂げるには、役割から従業員を判断し規定するのではなく、一人ひとりが「人」であることにまず立ち戻る。そして、互いを活かしあうことから、個と組織のWIN-WINを本気で考えていく。

そんな動きから、「ティール」という遠い理想に近づいていきたい。それが今の私の想いです。

「月は遠い。でもそこを目指して歩むなら、一歩ずつ近づくことができる。目指すものなく歩く人は、地球から離れることはできない」。あるアーティストの言葉です。この日本の、ほんの片隅から、でも理想をあきらめず、歩き出す。そんな勇気をくれたこの本に、とても感謝しています。

そして、ここまで読んでくれたみなさんとぜひ、「組織が『人』と『人』になる」ことについて語り合いたいです!

田中達也
株式会社リクルートコミュニケーションズ/インナーコミュニケーション推進グループ/シニアインナーコミュニケーションコンサルタント/シニアクリエイティブディレクター

平成元年入社以後一貫して求人広告をはじめとする、人と組織のコミュニケーションづくりに従事。就職ジャーナル編集長などを経て、2005年よりコンサルタントとして、リクルートマネジメントソリューションズ、リクルートキャリアなどと協働し、数多くの企業で、自律協働型組織づくりのためのファシリテーション、コミュニケーション設計に関わる。
広告クリエイター出身のため、人・組織の良い点・すばらしい点を見つけだし、本人の想いを引き出し、伝わりやすい言葉やイメージで紡がれたストーリーを作ることをミッションと感じている。

連載紹介

連載:『ティール組織』私はこう読んだ。
人類の長大な歴史から組織モデルの進化に迫る『ティール組織』。各界のリーダーや研究者はこの本を読んで何を感じたか。多様な視点から組織や社会の進化を考える。

第1回:もし島全体がティール社会だったら(阿部裕志:巡の環)
第2回:色の変化をたのしもう(小竹貴子:クックパッド)
第3回:組織論の「夢」に迫れているか?(永山晋:法政大学)
第4回:100%のコミットメントをメンバーに求めない組織はありなのか?(藤村能光:サイボウズ)
第5回:ひとりから始める組織変革(滝口健史:スコラ・コンサルト)
第6回:ティール組織を絵空事で終わらせないために(樋口あゆみ:東京大学)
第7回:組織が「人と人になる」とき(田中達也:リクルートコミュニケーションズ)
第8回:メモ不要。読めば思考が走り出す本(岡田武史:今治.夢スポーツ)
第9回:CEO交代の激変期、人事の役割を再定義させてくれた一冊(島田由香:ユニリーバ・ジャパン・ホールディングス)
第10回:リーダーが内省し合える「コミュニティー」が、意識の進化を後押しする(岡本拓也:ソーシャルマネジメント合同会社)

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ティール組織、ホラクラシー……いま新しい組織のあり方が注目を集めている。しかし、どれかひとつの「正解」があるわけではない。2人のフロントランナーが、業界や国境を越えて次世代型組織(Next Stage Organizations)を探究する旅に出る。

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