第3回記事バナー_しゃぼん玉

プレゼンもキャリアも特別なものにできる、「好きのかけざん」の力(竹内明日香)

「独創的なもの」「画期的なもの」は、どのようにしたら生み出せるのか? それらを生み出すクリエイティビティの源泉は何なのか? これまで延べ1万5,000人以上の若者に「話す力」を育む出前授業やキャリア教育を展開してきた著者が、すでに自分のなかにある「好き」が持つ可能性に着目して考える。

独創的なアイディアはどこから生まれるのか?

「0から1を生み出すことが大事」
「クリエイティビティこそ仕事人に必要」

起業家をはじめ、多くの方が力を込めて仰っています。今まさにイノベーションが求められる時代。でも「はぁぁ、そんな大それたアイディアなんて浮かばないよなあ」と、不安や無力感を抱く方もいらっしゃるのではないでしょうか?

でも心配はご無用です。イノベーションとは、実はいくつかの既知の要素をかけざんして、「新しい組み合わせ」から「新しい価値」を生み出そう、ということ。つまり、まったくの無から何かを考えなければいけないわけではないのです。

そしてこのことは、子どもたちの「話す力」を育む出張授業を行ってきた身として、オリジナリティの高いプレゼンや、さらにはキャリアの選択の場面であっても、同じことが言えると感じています。

すでにあるものの「かけざん」が、いかに偉大な発見を生み出すか

アップルのスティーブ・ジョブズが発明したiPhoneは、世界を一変させました。これはiPod×電話×インターネットコミュニケーターのかけざんで生まれたイノベーティブな製品の事例です。

また、「恐竜は地球に隕石が衝突したことによって絶滅した」という説を発表したルイス・ウォルター・アルヴァレズとその息子ウォルター・アルヴァレズの事例も興味深いです。この親子は、父親が原爆製造のマンハッタン計画にも携わった物理学者、息子は石油技師でもあった地質学者という異色のコンビで、地層の間に地球にはないイリジウムを発見したことから、小惑星の衝突による多くの生物種の絶滅という説を導き、これは今では恐竜絶滅の有力説になっています。

これらの例から、世紀の発明と言われる製品も、世紀の発見と言われるような事柄も、すでにあるものや概念を新しい組み合わせでかけざんしてみることで誕生する、ということがわかるかと思います。

普通のプレゼン×自分の「好き」=特別なプレゼン

人前で話すときにも、「何か聴き手が求めるような画期的な話をしないといけないのではないか?」という風に気負ってしまうことが多いと思います。でも、朝礼のスピーチであっても、取引先向けのプレゼンテーションであっても、すでに自分のなかにあるネタをかけざんして提供していく、という手法が効果を発揮します。

そして、そのネタのチョイスとして私が強く勧めたいのが、自分のなかの「好き」を盛り込むこと、なのです。

過去に、外国人向けに日本の運輸業界事情を説明するプレゼンをサポートした際、その担当者が雑談で、自転車でツーリングに行った先々で食べるらーめんについて熱く語っていらっしゃいました。そこで、プレゼンでもそれらのネタを利用することにしました。日本の交通事情と道路整備の状況、自転車の走行が道交法上変わった話などを語りながら、途中で「B級グルメがなぜ偉大か」という話を含む、ロードサイドの飲食店の視認と流通というエッセンスも入れていったのです。最後には、完全に彼にしかできないオリジナルなプレゼンに仕上がり、外国人にも大いにウケていました。

好きなものを語るとき、人は笑顔になります。ネタもひとつだけ入れるより、意外なものをかけざんしてみると、その人なりの深みが出ます。どんな固いプレゼンであっても、大幅に脱線し過ぎない範囲でネタをかけざんして入れてみる勇気を持ってみてください。

若者のキャリアデザインにも生きる、「好き」のかけざんの力

これまで延べ10,000人以上の中高大学生向けに『キャリア教育×プレゼンテーション』というお題で授業を提供してきました。若者たちにも、自分が「好き」と思えることをかけざんしてみよう、と口酸っぱく話しています。特に受験の面接や就活を控えて切実な悩みを抱えている若者が多いためです。

10歳くらいまでは、「サッカー選手になりたいです!」と堂々と夢を語れても、プロになれるのは日本全国の1学年でわずか14人という現実の前に、そう言い放てる子は学年が上がるにつれ減少していきます。「サッカー」というひとつだけの「好き」から導けるキャリアは、サッカー選手、サッカーコーチ、スポーツ店店員、整体師など、限られてきます。その限られた選択肢のなかからでは「自分に向いているものが見つからない」と感じ、その「好き」だったサッカーという夢も色あせていき、夢を語ること自体がつらくなっていく。当初の夢がパティシエであっても獣医であっても、狭き門と知り夢が萎えるという例が多いのです。

しかし、どれほど夢が狭き門であろうと諦める必要はありません。

ひとつの「好き」から発想するのではなく、好きなことがあればどんどん自分の引き出しに放り込んでかけざんしてみましょう。そうすることで、あなたならではのオンリーワンの未来が見えてくるものです。

例えば、最初は「音楽が好き、でも将来の夢なんて見つからなーい」と鉛筆を転がしていた女子高生。彼女は、音楽が好きなことに加えて、「食べることも好き」「最近ボランティアで行った聴覚障害者の方々を助けたいとも思った」と、時間をかけていくつかの要素を出してみていました。

「これらの要素をかけざんしたら何ができるかな?」

1週間後にまた授業に訪れたときには、彼女は「食べものを提供するだけでなく、音がなくてもリズムを体感できる仕掛けなどを備えた、耳が不自由でも音楽を感じられるカフェをつくりたい」という夢に行きつきました。ただ「音楽が好き」だけよりも、楽しくやりがいのある未来が見えてきそうです。

Connecting the dots――可能性はすでにあなたのなかにある

スティーブ・ジョブズも、かつてたまたまカリグラフィーの勉強をしたことが、マッキントッシュが複数のフォントを持つことにつながったと言います。彼が2005年に米スタンフォード大学の卒業式で行ったスピーチは、「Stay hungry, stay foolish」の言葉で有名になりましたが、人生観についても下記のような名言を残しています。

将来何らかの形で点がつながると信じることだ。何かを信じ続けることだ。直感、運命、人生、カルマ、その他何でも。この手法が私を裏切ったことは一度もなく、そして私の人生に大きな違いをもたらした。

勝負プレゼンや面接が控えているとしても、あまり気負わずに、自分が「好き」で自信を持って笑顔で語れるものを要素として入れていく訓練をしていけば、誰にもできないオリジナルな話をできるようになるものです。さらには、職業を選択する場合でも、何か事業を興すにしても、自分の「好き」の点と点をかけざんしていけば、ひいてはそれが将来の創造性の種になるのではないかと思っています。

このかけざんを起こすためには、まずはひとり静かに、頭のなかで「自分は何が好きなのか」と自問自答する時間を多くとることが非常に重要です。加えて、家族や友人が好きなものを聞いてみて、それに興味を持ってみる。今まで知らなかった分野の本を読んでみる。自分でも関われそうな世のなかの課題を見つけて、そんな活動をしている団体に週末だけ参加してみる。

自分の内なる小さな「好き」や、身近でできる小さな取り組みなど、小さな要素を組み合わせることで、世界は無限に広げられるはずです。


≪連載紹介≫

画像1

連載:「好き」を言語化しよう(フォローはこちら
道徳の教科化が始まり、「忖度」が流行語となる時代。善悪の判断や他人への配慮が問われる一方で、飛び抜けた活躍をする人たちはみな、自分自身の「好き」を表明し、徹底的に追い求めている。社会を動かすのは、正しさ以上に「好き」を原動力にしている人たちではないだろうか。 この連載では、国際舞台で戦う日本企業の発信を長年支援し、4年間で延べ1万5,000人以上の子どもたちに「話す力」を育む出前授業を行ってきた著者が、自らの「好き」を言語化する力の可能性を、プレゼンやチームづくりなどの様々な場面における効用を示しながら探る。

インタビュー:「話す」ことに苦労した子どもが、子ども向けプレゼン教育のプロになった
第1回:なぜ「好き」を語る子どもが「正しい」を語りたがる大人になるのか
第2回:「聴き手のため」を考え抜いたプレゼンは本当に強いのか?
第3回:プレゼンもキャリアも特別なものにできる、「好きのかけざん」の力
第4回:日本の20代の好奇心はスウェーデンの60代並み!?
第5回:「不得意だけど好き」と「嫌いだけど得意」はどちらが強いのか
第6回:強いチームは「苦手」を克服させない
第7回:勢いのある企業が社員の「得意」よりも大事にしていること
第8回:なぜ結婚式の主賓スピーチはつまらないのか
第9回:人に刺さり、人が集まる「S字の自己紹介」
第10回:日本で起業家が少ない、見過ごされがちなもう一つの理由
最終回:「好き」を語る子どもであふれる未来は、私だけの夢ではなくなった
編集後記:「話す力」は本人だけの問題ではない。取り巻く環境をどう変えていくか

≪著者紹介≫

画像2

竹内明日香(たけうち・あすか)
一般社団法人アルバ・エデュ代表理事。株式会社アルバ・パートナーズ代表取締役。
東京大学法学部卒業後、日本興業銀行(現みずほフィナンシャル・グループ)にて国際営業や審査等に従事。(株)アルバ・パートナーズを2009年に設立し、海外の投資家向けの金融情報提供や、日本企業向けのプレゼンテーション支援事業を展開。さらに、子どもたち・若者たちの話す力を伸ばすべく、2014年に(社)アルバ・エデュを設立、出前授業や教員研修、自治体向けカリキュラム策定などを精力的に行っている。2019年3月現在、延べ150校、15,000人に講座を実施。2014年、経済産業省の第6回キャリア教育アワード優秀賞受賞。2018年、日本財団ソーシャルイノベーター選出。日本証券アナリスト協会検定会員。

英治出版オンラインでは、記事の書き手と読み手が深く交流し、学び合うイベントを定期開催しています。連載記事やイベントの新着情報は、英治出版オンラインのnoteFacebookで発信していますので、ぜひフォローしていただければと思います。竹内さんの連載マガジンのフォローはこちらから。(編集部より)

みんなにも読んでほしいですか?

オススメした記事はフォロワーのタイムラインに表示されます!