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陶芸家から本作りのヒントを学ぶ

親子島留学プログラム」に参加し、2018年3月から島根県の離島・海士町で暮らしている著者。離島から会社を経営することで、経営者としてどんな気づきがあるか。今回は、陶芸と出版の共通点について考える。

その焼物は「2つの対話」からできている

海士町の自宅から歩いて10分のところにある、陶芸家・勇木史記さんの工房「隠岐窯」を訪れた。作品を手にとり、お茶を点ててもらい、あれやこれやとお話を伺って印象に残ったのは、勇木さんが「2つの対話」を意識して焼物に向き合っていることだ。

1つは、「自然との対話」。自分のセンサーが特に反応した、勇木さんの言葉を列挙してみる。

「焼いて固まれば土、溶ければ釉薬。土に良い悪いはない」
「癖が強い土は、やりすぎてはダメ」
「土は寝かすと扱いやすくなる」
「扱いやすい土を良い土と呼んでいるだけ」
「思いを込めすぎると、土に溶け込めない」
「土を遊ばせたい。上に伸びろ」

話を聞いていると、勇木さんが子育て中の親のように、あるいは「土」を社員に置き換えれば経営者のようにも思えてくる。

土を遊ばせると、土がわぁーっと伸びるときがあるそうだ。反対に、「なんでー、ここでー、うそー、もっといけるんじゃない」と土のやる気を引き出せず、ボソボソとぼやいてしまうこともあるそう。そんな時に力を抜いてみると、またスーっと伸びることがある。土、火、水の地力のエネルギーを焼物に込めるには、「自然との対話」が欠かせない。

もう1つ勇木さんが意識しているのが、「人との対話」だ。焼物には使い手がいて、使い手には用途がある。その制約の中で「自然との対話」をし、土に使い手の用途を知らせてあげる。勇木さんの作品を触っていてわかるのは、よく手に馴染むこと。正面で持つと、どっしりとした地力のエネルギーが手に染みこんでくる。そして、茶碗を回すと、しっとりと吸いつくように手に収まる。微妙に楕円の器で、飲み口が正面より若干細くなり、口に馴染む機能美がある。

使い手の用途をよく吟味した美しさ。そして、日常で使われることを想像して作った茶碗は、日々の暮らしに溶け込み、人の手に触れ、茶に触れて、汚れやシミさえも器の景色となる。さらには一器三様、茶碗を茶碗以外として使う遊びを排除しない。

使い手を想像し、使い方を想像し、そして遊びを見出す「人との対話」。これを「自然との対話」に還元することで、育てる楽しみがある器が完成するのだ。

陶芸と出版に共通する「育てる楽しみ」

陶芸における対話について聞いているうち、これは出版に似ていると思った。著者の原稿は土のようであり、編集プロセスでは土が焼物となるように情報を固定化し、出版物となる。著者を伸ばすことを一番に意識しつつも、読み手を想像し、読み手の期待を原稿に還元して、最終原稿に仕上げていく。

営業プロセスでは、「器を育てる楽しみ」に似た要素がある。本は、著者の原稿だけで完結しない。どんな読者のどんな成長を支援するかで、その本の景色が変わり品格が増す。

例えば、書評などがそう。良識と志のある人が本を評価すると、著者や著作の信用に評者の信用が加わり品格が増す。誰が書いたかも重要だが、誰が読んだかで、その本の価値が変わる。だから出版は、誰に届けるかに販売の妙があるのだ。まさに育てる楽しみがある商売ともいえる。

これは全くの余談だが、焼物はひっくり返したときの裏の顔も結構大切なのだとか。そういえば私も本を手に取るとまず、発行年や刷数が書かれている「奥付」を見ようとする。ただの偶然だが、陶芸と出版の妙な共通点を見出して、なんだか二人でうれしくなった。

帰り際、勇木さんから「海士のご飯は美味しいですから、たくさんおかわりしてほしい」とごはん茶碗をいただいた。おかわりの際に生まれる会話を想像して、少し小ぶりの茶碗を作ったとのこと。お茶碗で食卓に会話を生むことを想像する勇木さんの美意識に息をのんだ。

そのお茶碗を見つめながら、自分は「知識武装」のための本ではなく、「知識共有」のための本を作りたいと改めて思った。それはつまり、誰かより強くなるための本ではなく、誰かと学びあえる本だ。

勇木さんの茶碗が会話を生みだすように、英治出版の本も読者の会話を生みだしていきたい。そういう機能美に想像力をいかせる経営者になりたい。そう強く思った。

原田英治(はらだ・えいじ)
英治出版株式会社 代表取締役。1966年、埼玉県生まれ。慶應義塾大学卒業後、外資系コンサルティング会社を経て、1999年に英治出版を共同創業。創業時から「誰かの夢を応援すると、自分の夢が前進する」をモットーに、応援ビジネスとして出版業をおこなっている。企業や行政、自治体、NPOなどでの講演も多数。第一カッター興業社外取締役、AFS日本協会評議員、アショカ・ジャパン アドバイザー。(noteアカウント:原田英治
気に入っていただけ嬉しいです!引き続き連載をお楽しみください。
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創業20年目の節目に、生活の拠点を島根県・海士町に移した著者。地方創生の先進地として知られ、全国から大勢の人が訪れる海士町での暮らしは、経営者としての思考や価値観にどんな影響をもたらすのか。1年にわたる島暮らしでの気づきを綴る。

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