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第1回:「組織の編集」と「編集の組織」

ライター、編集者、コンサルタント、事業パートナー、運営者として多様なメディアに携わってきた著者。連載初回は、「メディア」を取り巻く環境変化と、「編集と組織」に対する自身の問題意識を語る。

「メディア」に生じている変化

「メディア」が出版社や放送局の特権だった時代は終わりを告げ、いまやあらゆる企業がメディア化し、自分たちの伝えたいことをコンテンツ化して発信するようになりました。

編集者という肩書きを使い始めて、もうそろそろ10年。私が経営する編集デザインファーム「inquire」にも、自社のサービスやニュースを自ら発信する「オウンドメディア」についての相談が寄せられています。

オウンドメディアを運営する目的は、自分たちのファンになってもらうこと、顧客とつながるコミュニティを作ること、商品を販売することなど様々です。こうした外部発信だけでなく、社内の意識改革から新プロジェクトの意図伝達、さらには人材の定着率やエンゲージメントの向上といった「インナーコミュニケーション」の側面もあります。

加えて最近では、オウンドメディアを採用に活かす事例も目立ちます。人口が減少していく中で、優秀な人材が転職マーケットに出てきてからアプローチしては時すでに遅く、潜在的な転職層にアプローチするために、採用ブランディングが注目されています。

その代表例が、フリマアプリでおなじみのメルカリが運営する、社内のヒト・コトを発信する「メルカン」というオウンドメディアです。大きなプレスリリース発表に合わせて、その裏側をメルカンに掲載するなど、新時代のコミュニケーションデザインに取り組んでいます。

広報と人事が協力して実施している社員インタビューの掲載や自社イベントの開催を通じて社内の様子をオープンにし、メルカリの活動に関心を持つ潜在層にアプローチ。今では社内の人だけでなく、面談に足を運ぶ人がほぼ全員見るメディアになっているそうです。

そしてメルカンがユニークなのは、編集やライティングを一切アウトソースせず、社内のリソースで運営している点です。そのため会社の取り組みに関する理解度も深く、かつ発信までの速度も早い。当然コストもおさえられる。

メルカンという成功例が生まれたことにより、「自走できる編集体制を自社で構築したい」という相談も増えてきました。事業会社が、社内に編集組織を立ち上げる。そのために必要なことは何か。

メディアの「組織」はどうなっているか?

大学在学時から現在にいたるまで、関わってきたメディアとその編集部は20以上。そして現在、編集組織の立ち上げや、既存の編集組織の改善に深く携わるようになり、「編集部」というものを改めて考えるようになりました。

従来の編集部は、編集長を頂点としたヒエラルキー型の組織だと言えるでしょう。メディアの顔となり、ビジョンを掲げる「編集長」の存在はとても重要で、コンテンツや集まる人の性質に大きな影響を与えます。

しかし、影響力が大きいがゆえに、なんらかの事情で編集長が代わるとメディアの方向性が変わり、ユーザー離れが加速することもしばしば。事業会社でもカリスマ社長の交代で業績不振に陥るケースは多く見られます。

編集部が不透明なのも大きな課題です。ライターとして関わった編集部では、自分の原稿がどうなっているのかが可視化されません。いつのまにか大幅にリライトされた原稿が掲載されることや、長期間、音沙汰がなかったにも関わらず、急に短い期間での修正を求める連絡が入ることもよくあります。

言語化された編集部の方針や求める基準がなく、「なんとなく」であり、「暗黙知」になっているケースもあります。そのため、編集部が何を良しとしているのかがわかりにくく、関わる人々がカルチャーを理解するのに時間がかかることも。こうした慣習も、編集長の交代による影響が大きいことにつながっているのではないでしょうか。

一方で、会社組織に起きている変化を見てみると、フラットな組織や透明性の高い組織、自己組織化する組織などへの注目が高まっています。英治出版の『ティール組織』も、新しい組織のあり方を示唆する書籍のひとつです。

会社組織については盛んに議論されているのに、編集部の組織は旧態依然。メディアの数だけ編集部があるにもかかわらず、時代は変われど編集部は変わらず。

「組織の編集」と「編集の組織」を考える

「いいコンテンツを生み出す、いい編集チームを社内に構築するにはどうすればいいか」。この問いを起点に、既存の編集部と新しい会社組織について調べ始め、「編集の組織」と「組織の編集」について考えを深めたいという思いが強くなりました。

メディアを運営する編集部は、これからどう変化していくべきなのか。
編集を内製化しようとする会社は、これから何にどう取り組むべきなのか。
編集やコンテンツは、組織にどう作用するのか。

この連載を通じてこれらの問いについて考えていきたいと思っています。編集力のある組織が増える、編集部の組織力が高まる。それによって、良い情報が社会に流通するようになり、さらに人と組織の学習や変容が後押しされる。そう信じています。

ただし、自分の中に「解」があるわけではありません。もっと多くのプロジェクトに関わり、もっと深く企業の現場を知る必要があるとも感じています。試行錯誤のプロセスを皆さんと共有し、学びあいながら、これから連載を通して「いいコンテンツ、いいチームって何だろう」という答えのない問いを探究していきたいと思います。

モリジュンヤ 1987年生まれ、横浜国立大学経済学部卒。『greenz.jp』編集部に参加し、副編集長を経て独立。フリーライターとして数々のメディアに寄稿する他、『THE BRIDGE』『マチノコト』等のメディアブランドの立ち上げや運営に携わり、社会的企業、スタートアップ、テクノロジー、地域ビジネスの取材執筆を行う。
2015年、編集デザインファーム「inquire」を創業。人の可能性を開放するウェブメディア「UNLEASH」やライティングを学び合うコミュニティ「sentence」を運営し、企業の編集パートナーや情報発信力の内製化等に取り組む。NPO法人soar副代表理事やIDENTITY共同代表として、インクルーシブの社会の実現や地方産業のデジタルシフトをテーマに活動。(noteアカウント:モリジュンヤ

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