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他者に目を向け、誠実に支援することでよりよい未来をつくりだせる──『成長を支援するということ』1章後半公開

部下との面談、課題は理解しているのになかなか改善につながらない。やめれば健康になるとわかっている悪習慣なのに、家族がどうしてもやめてくれない──

成長してほしいと願う相手の助けになろうとしたとき、私たちは問題解決的なアプローチを取ってしまうものです。
しかし、人を何らかの目標に合わせて「修正」するやり方では、一時的にはうまくいっても、長期的にはストレスやその場しのぎの反応を引き出してしまい、持続的な変化にはつながりません。

本当に相手のためになる支援とはどんなものなのか。人を育てる立場の人が日々直面する問いに科学的なアプローチから答えを出した新刊『成長を支援するということ──深いつながりを築き、「ありたい姿」から変化を生むコーチングの原則』の発売を記念して、1章「支援の本質」の後半を公開します。

思いやりのコーチングはなぜうまくいくのか

私たちの研究が示すところによれば、変化を持続させるためには、それが外から押しつけられたものではなく、自分の意思によるものであること、自分の内側にモチベーションがあることが重要になる。
だからこそ、思いやりのコーチングは相手の理想の自分を明確にするところから始まるのだ──レイキン医師がもっとバランスの取れた生活を送りたい、家族や昔からの友人とのつながりを取り戻したいと気がついたときのように。

レイキン医師は、頭も心も「ポジティブな感情を誘引する因子(Positive Emotional Attractor=PEA)」にしっかり結びつけられ、変化がもたらすはずの可能性や興奮に心を開くことができた。後の章では、このPEAを「ネガティブな感情を誘引する因子(Negative Emotional Attractor=NEA)」──たいていするべきことや外部からの命令が引き金となるもの──と比較しながら、持続する変化を起こすプロセスにおいてPEAがいかに助けになり、NEAがいかに妨げになるかを見ていく。

そうは言っても、成長のためにはPEAとNEAの両方が必要になる。ただ、「服用量」と、それが効果的な順序で起こるかどうかが問題なのだ。また、本書では、PEAが転換点として働き、重要な成長のプロセスを進める助けとなることを示していく。こうした進展が「意図的変革理論(Intentional Change Theory=ICT)」によって導かれることは、3章で詳しく説明する。

本書では、ほかにも多くの研究成果を提示する。コーチングのプロセスがつねにパーソナルビジョンから始まるべきであること、コーチングのプロセスそのものがその場かぎりの断片的なものでなく、もっと総合的な、相手の人生全体を包むようなものであることを説明する。

ここに大事なことをメモしておく。コーチをはじめ、他者を支援しようとする人なら誰でも、まず自分がインスピレーションを受けていなければならない。自分自身のモチベーションや感情を自覚していなければ、有益なやり方で他者と本物のつながりを築くことはできない。

つまり、コーチは──教師でも、親でも、医師でも、看護師でも、聖職者でも、プロのエグゼクティブコーチでも──自身の感情を理解し、自身のパーソナルビジョンへの展望を持っておく必要がある。それが支援する人とされる人のあいだにできる、真の人間関係のための基礎となる。よって、本書に出てくるエクササイズには、コーチングを受ける人だけでなく、コーチ自身に必要なものも含まれる。

本書に書いたことはすべて、私たちが個人的に──1人で、あるいはチームで──過去50年にわたっておこなってきた徹底的な調査にもとづくものであり、そのおかげで本書は支援やマネジメント、リーダーシップ、コーチングに関するほかの本と一線を画すものとなっている。本書の記述はエビデンスにもとづいている。

最初の調査は1967年で、大人が成長のために互いに助けあうこと(あるいは助けあいが成立しないこと)に関する研究として始まった。マネジメントから依存症までさまざまな領域での行動変容について長年人々を追跡する調査は、企業、政府機関、非営利団体、大学院の講座、病院といった世界中の組織でおこなわれた。

こうした調査を追う形で、ホルモンに関する研究や脳機能イメージングを用いた研究も20年近く続いている。本書では、私たち自身の研究とともに、大学の同業者や博士課程の学生によっておこなわれた研究にも言及する。これに加え、私たちはそれぞれにコーチであり、教育者でもあるので、自身の個人的な経験、プロのコーチとしての経験からの話も紹介する。

研究者であり著者である私たち3人は、ケース・ウェスタン・リザーブ大学で一緒に働き、3人ともウェザーヘッド経営大学院のコーチ認定プログラムで教えている。さらに、コーチングに関する新たな取り組みにも着手した。2014年にはコーチング研究所(CRL)を設立。CRLでは研究者とプロのコーチの力を結集してコーチングの研究を進めている。また、大規模な公開オンライン講座である〈インスピレーションを与える対話──学び、リーダーシップ、変化を支えるコーチング〉を2015年に開始した。このコースは思いやりのコーチングに焦点を当て、14万人を超える参加者を集めた。これに先立つ、思いやりのコーチングへの導入となるコース──感情知性を通じて心を動かすリーダーシップのコース──には、215を超える国々から、80万人以上の参加者があった。

私たちの研究によって──とりわけ行動科学、ホルモン研究、脳機能イメージングの利用により──本人の夢やビジョンに沿ったコーチング(思いやりのコーチング)と、外から規定された目的に合わせたコーチング(誘導型のコーチング)では、与える影響が大きく異なることが示された。

さらに、思いやりのコーチングがいかに効果を持ちうるかは、私たち自身が教える学生からも見てとれた。4カ月のリーダーシップ開発コースと連動した思いやりのコーチングを通じて、学生たちが自己実現のために伸ばしたいと望んだ感情知性、社会知性の両面が、他者視点でも明確に著しく向上した。これもまた、思いやりのコーチングを発展させるための科学的かつ確固とした論拠となった。

本書の手引き

本書を読み進むにつれて、この章で見てきたそれぞれのトピックについて理解を深めていくはずだ。そして洞察力と実践的なスキルを磨いていき、多くの状況で最も効果的に他者を支援するときに役立てられるようになるはずだ。

本書のあちこちで、私たちはとくに重要な情報を「キーポイント」として強調し、関連する調査研究を「注目の研究」として挙げ、巻末の注で参考文献やさらなる詳細を提示する。

実践的に学びたい読者のために、「内省と活用のためのエクササイズ」として、実践的なワークを付した章もある。知識として頭に入れるだけでなく、自発的に学びとる気持ちでエクササイズを進めてほしい。

また、「対話へのガイド」を付した章もあり、友人や同僚とともにじっくり考えたいトピックに関する質問を紹介している。本書を役立てるには、アイデアやテクニックについて自分でよく考え、内省や体験を誰かと話しあうことが重要だ。これは脳機能イメージングの研究によって示されていることでもある。誰かと話すことでアイデアが活性化され、活用しやすくなる。「対話へのガイド」はそのために有効なのだ。

著者の希望としては、本書は最初から最後まで通読する形で楽しんでいただきたいところだが、特定の章やキーポイント、エクササイズ、その他の強調された項目を拾い読みすることで、辞書的に使うこともできる。

本書の流れを手短に説明しておこう。
2章では、コーチングや、人と人とが助けあう方法についての定義と実践を見ていく。実際のコーチングの例が示すとおり、支援のプロセスの中心にあるのは、支援する人とされる人との人間関係である。

3章では、誘導型のコーチングと比較しながら、思いやりのコーチングのやり方をより深く探っていく。「人は変わりたいと思ったときに変われる」と気づくことの重要性から始め、持続する望ましい変化のモデルとして、意図的変革理論(ICT)における5つのディスカバリーを詳述する。

4章では、新しい脳科学の研究からわかったことを論じる。この研究のおかげで、私たちはより持続的に他者を支援できるようになる。とくに、受容能力やモチベーションがより高い状態をつくりだすために、脳内でどうやってPEAを刺激したらよいかを見ていく。

5章では、PEAとNEAを科学的な側面から探り、NEAを残しておく必要はあるものの、人を成功に導くのはPEAであることを詳しく説明する。どうしたらPEAを効果的に呼び覚まし、PEAとNEAのあいだに適切なバランスをつくりだして、長く続く成長と変化を起こせるかを論じていく。

6章では、パーソナルビジョンについて掘りさげる。私たちの研究が示すところによれば、ビジョンを発見し発展させることが、神経科学的にも感情的にも、PEAを呼び起こすための最も強力な方法である。ビジョンを思い浮かべるのは、ありうる未来を想像することにつながる。単なる目標でも戦略でもない。起こりそうなことを予見するのとも違う。それは夢を見ることなのだ。

7章では、共鳴する関係を築き、学びと変化を引き起こすために、相手の答えを聞きながら適切に問いかけるにはどうしたらよいかに焦点を合わせる。質問の形とタイミングによってPEAや変化を引き起こすことができるのだが、その反対も起こりうる。重要な瞬間を逃したり、脈絡のない問いを発したりすれば、動機づけの対話になるはずだったものが、罪悪感を引き起こすだけの尋問に変わってしまう。

8章では、組織内にコーチングの文化を育てるために規範をどう変えたらいいかを探る。いくつか例を挙げよう。
(1)ピアコーチングを奨励する。
(2)外部、および内部のプロのコーチを使う。
(3)マネジャーが自分の部署だけでなく、ほかの分野でもコーチになれるように育てる。

9章では、「コーチングに適した瞬間(コーチャブル・モーメント)」──人が支援を受けいれられる状態になっている瞬間──の活用法を解説する。そして内省や自己開示のできる、安心感のあるスペースをつくりだすための実践的なガイドを示す。また、典型的な「困難事例」をいくつか例に挙げ、思いやりのコーチングのテクニックがどのように助けになるかを示す。

10章は締めくくりの章だ。2章で最初に提示したエクササイズに立ち返り、支援してくれた人がいまの自分の一部になっていることを再確認してもらいたい。本書を読み、他者の成長を支援する方法を学んでもらったあとで、私たちが問うのはこれだ。
「あなたの名前が支援者として載るのは誰のリストか?」

結局のところ、夢を追う誰かとつながりを持てることこそ、人生で最もすばらしい不滅のギフトであり、私たちの財産なのだ。

希望のメッセージ

本書で私たちが伝えたいのは希望のメッセージだ。
人々が継続的に学び、変化していけるようにインスパイアするのは難しいことではない──たとえ一見難しく思えることがままあるとしても。人が自分の夢やビジョンを追求するなかで、目のまえの具体的な問題を解決しつつ、新しいアイデアを探求するよう刺激するにはどうすればいいのか。有能なコーチや支援者は、人々がそれぞれの人生において持続的な望ましい変化を起こすのをどのように手助けしているのか。

私たちは、効果的な支援やコーチングへのアプローチを研究するとともに、コーチする側とされる側の双方にとって有意義な人間関係とはどういうものか、そしておそらくこちらのほうが重要なのだが、そういう人間関係がどう感じられるかを分析している。だから本書では、「コーチ」という語を対話のアプローチの1つとして使うと同時に、肩書きや果たすべき役割以上の、人としてのあり方を表す言葉として使っている。

本書のアイデアと実践が、コーチ、リーダー、マネジャー、カウンセラー、セラピスト、教師、親、聖職者、医師、看護師、歯科医、ソーシャルワーカーほか、クライアントや患者や学生と接するすべての人々の対話の方法に変化をもたらすと信じている。

さらに、人を支援することやコーチングに関するより多くの研究のきっかけとなることも願っている。コーチやマネジャーを育成するプログラムや、医療・看護教育など、人を助けるプロを育てることを狙いとしたプログラムは多数あるが、そうしたプログラムが、他者が学び、変化することに対してインスピレーションを与えるような、一味違うものとなるように、微調整や修正を促したい。

そして何より、暮らしのあらゆる分野で二極化が言われるこんな時代だからこそ、人々がお互いに相手の話を共感を持って聞くスキルを伸ばせるように、私たちは手助けをしたいのだ。心を開いて、お互いから学んでほしい。

人々が自分の外に目を向け、新しいアイデアを受けいれられるよう手助けできることを、私たちは望んでいる。他者に目を向け、誠実に支援することによって、自分の家族から、チームから、組織から、コミュニティから発する形でよりよい未来をつくりだせる。私たちが本書で差しだすのは、学びたい、変わりたいと願う人々の気持ちをうまくとらえ、より思いやりのあるやり方で自分や他者をやる気にさせる術である。

では、始めよう。

(注)ウェブ掲載にあたり、可読性向上のため、改行を加えています。

[書籍紹介]
成長を支援するということ──深いつながりを築き、「ありたい姿」から変化を生むコーチングの原則
リチャード・ボヤツィス、メルヴィン・L・スミス、エレン・ヴァン・オーステン(著)、和田圭介、内山遼子(監訳)、高山真由美(訳)

人が変化するとき必要なのは、ともに「夢」を見ることだ。
部下、同僚、子ども、生徒、患者……
成長を願う相手の情熱やビジョンを呼び起こし、人生を通じた変容を本気で支援するための、理論と実践の書。

「ついに出た。どうすれば他者を助けられるか?
という重要な問いに対する科学的根拠に基づいた答えが」
── ダニエル・ゴールマン(『EQ こころの知能指数』著者)

[目次]
監訳者序文
1 支援の本質── 他者が学び、成長するのを真に助けるには
2 インスピレーションを与える対話── 一番大事なことを発見する
3 思いやりのコーチング── 持続的な望ましい変化を呼び起こす
4 変化への渇望を呼び起こす── 喜び、感謝、好奇心に火をつける問いかけ
5 生存と繁栄── 脳内の戦い
6 パーソナルビジョンの力── 単なるゴールにとどまらない夢
7 共鳴する関係を育む── ただ聞くより、深く耳を傾ける
8 コーチングや助けあいの文化を築く──組織変革への道筋
9 コーチングに適した瞬間を感じとる──チャンスをつかめ
10 思いやりの呼びかけ──夢への招待状
謝辞
原注

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